3Z&パラレル
□月の裏側
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「っつ・・・!!!くっ・・・!!」
「・・・ぁ・・・!!」
吉原でも最上級の客しか入れない、遊郭の奥の更に奥にある離れの一室。
そこで絡み合う男と女の声があった。
「はぁ・・・・はぁ・・。」
銀時の額を、一筋の汗が流れる。
「ぅ・・・く・・・・。」
「ぐぁぁぁぁぁ!!!!これでどうだぁぁぁぁ!!!」
「ん・・・・はぁ!!!!」
バタン、と大きな音がして襖が破れる。それを突き破って隣の部屋へ飛んで行ったのは一人の少女。
少女はすぐさま起き上がると、襖を蹴破り部屋に戻ると、銀時の胸倉を掴んだ。
「まだアル!!!勝負はついてないネ!!!!」
「うるせーー神楽!!大人はお子様みてぇに元気ハツラツじゃねぇんだよ!!ストレス解消ならもう十分終わったろうが!!」
「まだアル!今のは瞳孔開いたニコ中と変態ゴリラの分ネ!次は本命ドS野郎への恨みアル!!」
「ああ!オメーのストレス解消に付き合ってたらか弱い俺の身も心ももたねぇよ!!」
「うるさい!第一私はお前の主人アル!神楽様とお呼び!!!」
「呼ぶかぁぁぁ!!!!!」
ああ、俺もう限界。乱れた息が収まらず、銀時はその場に尻餅をついた。
それを見下ろし、少女は腰に手を当て胸を張った。
「中年は体力が無いから相手にならないアル。」
「うるせー、無駄に元気だからガキは嫌なんだよ。」
まあいいアル。銀時の隣のぺたん、と座ると神楽はその辺りに転がっていた湯飲みを拾い上げた。
「酌するネ。」
「ハイハイ。」
のろのろと立ち上がり部屋の端にあった急須を持ってくると、銀時はその湯飲みに茶を注いだ。
***
銀時の元に、この変わった客が初めて訪れたのは数ヶ月前の事であった。
「エ戸城のお偉いさんでね。内密に吉原に来たいらしいんだけどさ、ちょっと変わっててね。で、あたしはアンタが適任だと思ったんだ。」
内密にね。お登勢の言葉に、銀時は軽い気持ちでいいよ、と答えた。
身分が高い客が内密に吉原を訪れる事は珍しくない。一応、この吉原は「下賤」な場所だから、あまりおおっぴらに通う場所では無いからだ。
そういう時は口の固い、太夫クラスの者が相手をする。
『ちょっと変わった』というのが気にはなるが、内密の客はその分実入りも良い。銀時は特に気にする事もなく座敷へ上がった。
「お前アルか。少々殴っても大丈夫なヤツは。」
開口一番飛んできた拳を、銀時が避けたのは奇跡と言えるくらいだった。
***
神楽、と名乗った少女は、それ以来月に1・2度銀時の所を訪れる。
その度に銀時相手に「ストレス発散」と評しては喧嘩を吹っかけてきた。
どうやら銀時が選ばれたのは口の固さに加えて、腕っ節も買われたらしい。
だが、年端も行かぬ少女と本気で勝負する訳にはいかない。
しかし、神楽の強さもなかなかのもので腕に覚えのある銀時でもたまに本気のパンチを食らう事もある。
「本気でかかってくるアルネ。」とのお言葉も頂いたという事で、段々と銀時も容赦なく相手をするようになった。
だが、拳と拳で気持ちが通じ合ったのか、喧嘩をする毎に神楽も銀時に気を許すようになった。
そのうち、喧嘩の合間にぽつりぽつりと事情を話すようになった。
元々町中育ちの彼女にとって、城内の暮らしは窮屈過ぎてストレスが溜まるらしい。
だが、色々と敵の多い彼女は城内ではあまり無茶な事は出来ない。
町に居た頃のように、友達と喧嘩をする事も出来ない。
喧嘩好きな彼女にとって、暴れる事が全く出来ない状況は苦痛以外の何者でもなかった。
そこで、密かに喧嘩を出来る相手を探した。
知人を通じて知り合ったお登勢に話をすると「それなら最適の相手がいる」と銀時が紹介されたらしい。
あのババァ・・・と密かにののしりたくはなったが、何度も会ううちに銀時もこの少女の相手が楽しみになって来た。
断片的に聞く話だけでも、この少女が魑魅魍魎の如く大人達の欲望が絡み合う世界で如何に必死で生きているかがわかる。
その息抜きくらい付き合ってもバチは当たらないだろう。
銀時は神楽を年の離れた妹のように思うようになった。
そして神楽も、銀時を「銀ちゃん」と親しげに呼んでは兄のように慕う。
その笑顔はまさに少女という感じで、初めてあった頃に比べると相当年相応に見えるようになった。
そして、こうしてたまに会って喧嘩したり話をしたりするのは、二人にとって大事な時間となっていた。