3Z&パラレル

□つめたい夜に
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風の強い夜は苦手だ。人買いに売られた日の事を思い出す。




あの日、村を出て、山を越える途中で嵐が来た。雨風は強くなり、動けなくなって何処かの山奥で一晩過ごした。

とにかく強い風が、ガタガタと小さな小屋を揺らす。幼かった月詠は、今にも小屋が壊れそうな気がして、与えられた布に包まってずっと震えてた。

もし、これが自分の家だったら---姉の日輪が自分の布団に入ってきて、ずっと手を握ってくれただろう。
だが、ここに日輪はいない。親が死んだ時点で、それぞれ別の人買いに売られてしまったのだから。

「絶対に、負けるんじゃないよ。」

姉の言葉を胸に、月詠は大きな瞳に涙を溜めながら、泣き声だけは出すまいと必死で耐えた。いつか再び会える、姉はそう言った。自分はそれまで、負けるわけにはいかない。

だけど--強い風が、いつか小さな月詠の体を攫って行く気がして---




---ひとりになりたくない---




月詠は、ぎゅ、と目を瞑った。
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