3Z&パラレル

□己の選ぶ道は
1ページ/4ページ

男ばかりを集めた歓楽街「吉原」。この街の外れに、一軒の茶屋がある。

その名は「北斗心軒」店の主人は幾松と言う妙齢の女性。若くに夫とその両親を亡くし、その店を継いだ彼女は女手一人で店を切り盛りしていた。

その店の名物「来宇麺」は、非常に微妙な味である為、正直客は多くない。だが、それ以外の料理はそこそこの味であるし、主人の人柄を買って贔屓にする遊男や客もおり、小さい店ながら何とか商売を続けていた。



「うぃーっす、幾松さん、飴湯ひとつ。」

「おや銀さん、飲みすぎかい?目の下クマ出来てるよ。」


店に入って来た客---白夜叉太夫と名高い銀時の姿を見て、幾松は笑った。
吉原で一・二の人気を争うこの男も、この店に来る時は素の顔を見せる。色々と気持ちが荒みがちなこの町で、珍しく明るく気さくな人柄に幾松も好感を持っていた。

よいしょ、と椅子に座ると銀時があー眠てぇ、と声をあげた。幾松は、相変わらずだねぇ、と茶を出し、鍋を火にかける。



「太夫がそんな顔してちゃ駄目じゃないか。客が逃げるよ。」

「あーもう銀さん、悩み多き年頃でね、色々あるわけよ、眠れない夜とかあるわけよ、幾松さんさぁ、可哀想な俺を今度慰めて・・・。」

「それはお前の生活習慣がなっておらぬだけだろう。」

「あれ?いたのヅラ。」

「ヅラじゃない、桂だ。」


わざとらしくニヤけると、銀時は店の奥に座っている男を見た。先程の幾松への発言は、半分この男の存在を知った上で言ったのだが、思った通り目に怒りの色が浮かんでいる。


その男の名は桂小太郎。

銀時の幼馴染であり、全体的に退廃的な雰囲気が漂う吉原に於いて、最も襟を正し背筋をまっすぐに伸ばしている男であった。


「俺はね、仕事で疲れてるんだよ。この憩いの時を邪魔しないでくれる?」

「仕事明けならば俺もだ。それでもお前のようにたるんではおらぬ。すべてはお前のふがいなさから来るのだろう。」

「この街で、オメーみたいに規則正しく生活してる奴なんていねぇよ。」


涼しい顔でそばをすする桂を見て、銀時がケッと吐き捨てる。




桂は銀時と同じく幼い頃にこの街に売られて来た遊男である。
昔は、人一倍生真面目で堅物なこの男に、このような商売など無理だ、と銀時は思っていた。

だが、「子供が欲しい」と泣く女達を見て、意外にもこの男は使命を感じたらしい。

容姿だけ見て、快楽の為に桂を求める女達には、どれだけ金を詰まれても首を縦に振る事は無かった。だが逆に、本気で子供が欲しくて吉原に来る客に対しては、誰であっても誠実に対応する。

そして、毎朝早くに起床し、きちんと襟を正して町を歩き、誰に対しても礼儀正しい。


今時珍しいその姿に、桂は「吉原一誠実な男」と評判が広まり、その無駄に良い容姿と相まって中々の人気を誇っている。

銀時から見ればただの馬鹿なのだが、もともと狂ったこの街で、どこまでも自分を貫く事は難しい。そう言う意味では、いつまでも変わらない桂の姿は賞賛に値するとも思っている、そう思っていた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ