銀月(後)1
□人生は上々だ
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ここは山奥の温泉、仙望郷。
成仏できない魂が、極楽の湯を求めてやってくる、この世で最後の場所である。
そこへ、ある老人が1人、やってきた。
女将とレイは、門の前で客を待っていた。
「よう、銀。久しぶりだな。結構長生きしたんだね。」
「本当、あんたは絶対早死にだと思ったのにさ。」
「相当久しぶりじゃのう。いいのぉ、スタンドは全然年をとっておらぬわ。
しかし、女将、テメェはさっさとくたばったと思ったのに、何でまだココにいるんだ?」
「相変わらず間抜けな男だね。見てみな。アタシも今はスタンドなんだよ。
でもね、アンタがあと継いでくれなかったから、しょうがなく、そのまま宿を続けているのさ。」
「そりゃねぇぜ、美人若女将を期待してきたのに。」
「しかし・・・ひ孫の顔見るまで死ぬつもりは無かったのにのぉ。あの時飲んだいちご牛乳にまさか当るとは・・・。
まあ、糖分取って死ぬのなら本望じゃわい。」
フォッ、フォッ、と老人は笑う。
「まあ、それだけ生きたんだからいいだろう。さ、レイ、部屋へ案内しておやり。」
「いや、良い。待ち合わせしてるんでな。」
「待ち合わせ?まさか・・」
「いるじゃろうが。1人この宿に滞在しとる別嬪が」
「あらまあ、あの女性、あんた待ってたのかい?」
聞いても教えてくれなんだから・・・
そう言いながら、
「あんたには勿体無い相手だねぇ。
ずっとここで待ってたなんてね。」
「約束じゃからな。」
「何だよ、ノロケ聞かせるなんて、大層偉くなったじゃないか、レイ、案内してやんな。」
「今は庭にいると思う、銀行こう。
長い廊下を歩きながら、銀とレイは話をした。
「長い間あいつが世話になったみたいだな。」
「でも、世話になってるからって色々宿の手伝いはしてくれたし、たちの悪い霊を追い払ってくれたり、結構助かったよ。
いっそここの従業員にならないかって女将が誘ってたけど・・・。
まさか、あんたを待ってたとはね。」
あんたの背中流すのが楽しみだったのに、フラれちまった。
首をすくめるレイに、すまねぇなぁと銀は笑った。
庭へ出ると、1人の女性が掃除をしていた。
「月、お客さんだよ。」
振り向いた初老の女性は、銀の顔を見て微笑んだ。
「待っておったぞ、結構長生きしたではないか。」