小説

□一章:狼煙を上げろ!
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たまに思い出す。
それは、ロボットにとってただの「記録」で、「一部のデータ」に過ぎねぇ。
だが、俺にとっては、「大切な思い出」だ。

そう、あれは確か俺がまだ、自我を得ていない過去の―――。

「カロル、お前だけでも逃げろ、私のことはいいから!」

黒髪を揺らし、息せき切った男が背後をやたら警戒しながら、全力疾走していた。

「その命令には従えません…。
ロイド様を護衛するのが、俺の存在意義で使命です。」

その後ろには、燃えるような赤い髪の無表情な若い男が、前を走るロイドと言う人物を護衛しながら、ライフル銃を慣れた手つきで標的めがけてブレなく正確に撃ち抜いていく。
そのたびに空気が張り詰める。
ただならぬ緊張感に包まれていた。

どうやら二人は、何者かに追われているようだ。

「しつこい連中だな。
カロル!頼めるか!?厳しいようなら――。」

終始、言い終える前に赤髪の男が遮る。

「いえ、問題はありません。
バイタルは依然良好、安定しています。
いつでも攻撃は可能です。」

ロイドとはうって変わって、平然と息一つ乱さずクールに応えた。

「そうか、頼もしいな。
なら、目的地までこのまま行くぞ。
ポジション崩すなよ。
弾の残量は、後どれくらいだ?」

「御意。…残量弾数、アサルトライフル200発。マグナム3発。ハンドガン6発。
そして、スナイパー1発です。」

「なるほど、それくらいあればお前には楽勝だろう!」

追い詰められているのは確かなのに、ずいぶん余裕な態度だ。
よほど、この赤髪のカロルと言う男を信用しているのだろう。

「命令だ!カロル!
奴らに思い知らせてやれ!
ただし、ほどほどに…な」

意味深な苦笑いを浮かべて制止を促(うなが)す。

「御意。これより、臨戦モードに入ります。
ターゲットロックオン、殺戮を開始いたします。
ロイド様、これより敵を排除いたしますので、半径200センチメートル付近には入らないようお願いいたします。」
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