D.Gray-man

□曇り空を晴らすのは
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「神田?入るよ。」

彼の部屋のドアをノックして中に入ると、彼はベッドに横たわって天井を見上げていた。こちらを見ないまま彼は返事をする。
「何の用だ」
「何の用、はないでしょ」
室長が呼んでるわよ、と言うと彼は短く返事をして体を起こした。
「任務か?」
「たぶんね。」
彼は無言で立ち上がって壁に掛けてあったコートを掴む。そしてそのままリナリーの正面に立った。何か言い足そうな目で彼女を見る。いつも通りのキツい目つきなはずなのに不安げな色が浮かんでいるような気がした。

「…どうしたの?」
「いや、」
なんでもない、とつぶやくと神田はそのままドアを開けて出て行こうとする。その後ろに着いていくようにしてリナリーが外に出ると、彼は彼女に合わせるように歩を緩めた。
「最近、任務多いね。」
「そうか?」
普段通りだろ、と神田。
「そう…かな。最近あんまり神田に会ってない気がして。」
「そうか。」
そして沈黙が訪れた。2人の足音だけが教団の廊下に響く。今日はやけに静かだ。
室長室に着くとコムイはすぐに任務の説明を始めた。今回の任務は危険そうだ、とお茶を汲みながらリナリーは思った。

「じゃあ、よろしく!神田くん。」
「あぁ。」
六幻を背負いなおした神田は踵を返して部屋を出ていく。お盆を抱えたリナリーはその姿をじっと見つめていた。ぼんやりと胸の内に渦巻く黒い不安が彼女の心を乱す。もしかしたら今日で―、なんて有り得ない最悪の想像までして。そんな考えをかき消すように頭を振った。いつもなら感じないこの不安。嫌な予感がした。

「…いいのかい?」
「え?」
「見送り、行ってあげて。」
コムイはリナリーを見てにっこり笑った。
ありがとう、兄さん。そう呟いてリナリーは急いで神田のあとを追いかけた。


「…神田ッ!」
用水路の前に来たところで、ボートに乗ろうとした神田をリナリーは呼び止めた。息を切らして神田に駆け寄って、思わずコートの裾をつかむ。
「おい、」
「死なないで」
何故来たのか、と問おうとした彼の言葉を遮って、彼女は告げた。乱れた息とともに吐き出されたその言葉はとても苦しそうで。まるで懇願するように彼女はコートを掴む手に力を入れた。不安げな表情のリナリーを面食らった顔で神田は見る。
「誰が死ぬかよ」
余計な心配すんな馬鹿、と神田はため息混じりに言ってリナリーの頭にポンと手を乗せる。リナリーが顔を上げると端正な顔を困ったように歪めた神田と目があった。
「…絶対だよ?」
「当然だ。」
神田は鼻で笑った。それならいいけど、とリナリーは微笑む。

「気をつけてね」
声を掛けると神田は小さく頷いた。
「行ってくる。」
「…行ってらっしゃい。」
神田はまたリナリーに背中を向ける。その後ろ姿を見るとまた不安が襲ってきて。神田が死ぬ訳ないと頭ではわかっていても心に渦巻く不安は消えてくれなかった。もしこのまま会えなくなったら?これが最後だったら?今まで神田は約束を破ったことはないけれど、もしかしたら今日は―。妙な胸騒ぎがリナリーを襲う。視界が霞む。あぁ、きっと疲れてるんだ。早く戻って寝なきゃ――

「リナ」
ぐい、と何かに引かれる感覚がして、気がつくと彼女はたくましい腕の中にいた。柔らかい声色でささやかれる彼だけが呼ぶ愛称。濡れた視界で彼を見上げるけれど、どんな顔をしているのかは見えなかった。
「…神田?」
腕にこもる力。ゆっくりした鼓動がちょうど耳に押し付けられた胸を伝ってくる。それだけでリナリーの中に渦巻いていたものが一気に晴れていくような気がした。いつの間にか大きくなってしまった彼にリナリーは体を預けた。そして神田は口を開く。


「ここで待ってろ。」






(きっとそれは太陽みたいな北風)








――――――――――
うちの神田くんはハグ魔ですかね?
(リナリー限定だけど)

リナリーは神田くんが任務出るとき
たまに不安になったりして
神田くん困らせてデレさせればいい

リナ嬢かわいい。







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