草雲

□冬には
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最近、めっきり日が沈むのも早くなり、庭の池には氷が張るほどとなった今日この頃


寒がりなあの方のために毎年私は用意をするのですが…





今年は違いました




その理由は至極当然


新築の仕事場は、いつでも程よい温度に調節されており、寒さ知らずなのです



ヒバードも私の頭よりも空調のきいた部屋の方がお気に入りのようで


最近は頭が寂しい日々が続いている今日この頃



出番がなくなった冬の必需品は、私の部屋へ用意することとなりました


無駄に広かった部屋には丁度良い


用意がすむと、机の上にはミカン
石油ストーブの上にはヤカンとスルメを置く


毎年の定番だ


香ばしいニオイがしてきたスルメと、ぬる燗


いつもは恭さんと楽しんでいたけれど、今年からは独りで…


そう思ったところでふと冷たい空気が体を震わせた



「へぇ、独りで楽しむなんて良い度胸じゃない」


『テツ、ズルイッ!』



恭さんとヒバードにより扉が開けられたためだった


恭さんの少し拗ねたような声色に、思わず口元がほころぶ



「すみません。恭さん」


恭さんお気に入りの座布団を取り出すと、一番暖かい場所へそれを置く


と、そこへ移動し、コタツに足を入れるのを見てから、正面に腰掛ける


心まで温かくなり、上機嫌でミカンをむく


と、今まで目の前にいたはずの恭さんがいなくなっていた


と、横に感じる温もり


「恭さん?」


「ここが一番暖かい」


そう言うと先ほどむき終わったミカンをひとかけ口に含む


ニヤリと笑われ

その顔にドキリと胸が高鳴るのを感じるも、それをごまかすように最早人肌程度まで温度が下がった日本酒をクイッと飲み込む


これからも、こうして居られたらいいと願いながらまた新たな酒を注ぎ足す

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