・・金黒・・

□●愛シテ●3ndcontact
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此処を、出て行こう。


そう決めたのは自分の意志。


だから後悔はしない。


ただ一つだけ願いが叶うなら、聞きたかった事がある。



ほんの少しでも。


違う意味でもいいから。



ーーなぁ、土方。


ーー俺を愛してくれたか?



聞いてどうなるわけじゃない。


それでも聞いてみたかった。



俺は。


愛してた。



アンタには、こう言われるかな。



『惚れっぽいな』


なんてね。


相手を惚れさせてナンボの商売してる俺が、惚れてばかりじゃ情けないよな。


本当、馬鹿だよな。



愛して欲しくて、愛されたくて。



愛シテ


愛シテ



ずっと心の中で、そればかり叫んでたんだ。



でも、もう今は。


アンタしか欲しくない。


だけど、それは叶わない。



だから、此処を出て行く。



アンタと離れる事が俺の恩返し。



愛してるから、さようなら。





結局、何度か家に掛けたが電話が繋がる事は無かった。


まさか何かあったのかと不安が過るよりも早く思い浮かぶのは、沖田の顔。

もしかしたらアイツに連れ出されて部屋を出たはいいものの、オートロックのこの部屋に入れないで居るんじゃないかなんて予想が大半を占めていた。


暗がりの道を歩きながら、土方は苦笑いを浮かべる。


あの派手な金髪で街を歩いたらさぞかし目立っただろう。

夜が似合う風体はホストならではか。


あの金髪は。


夜の街中では綺麗に輝くのだろう。



見つけて、欲しくて。



マンションの入り口の横。

ごみ捨て場の隣に小さくうずくまる姿がある。

目立つ金髪を隠すようにパーカーのフードを被り俯いている小さな体を見つけて、土方は小さく笑った。


そういえば最初に出会った時は、ごみの掃除をさせられたんだった。

そしてごみまみれの傷だらけな金髪ホストを拾ったんだった。



ーーあれから。


ーーもう、どのくらいだろう。



自分の姿に気付いた塊はゆっくりと顔を上げてこちらを見る。

上目遣いの眼差しを向けて、薄く笑った。



「……ニャー」



掠れた声で小さく鳴く。

その存在の前で立ち止まった土方は、小さな溜め息を吐き出した。



「……ペット禁止だ。悪いが拾え無ぇな」



土方の言葉を聞いて苦笑いする男はゆっくりと立ち上がった。



「お待ちしておりましたご主人様」



ペットが駄目なら家政婦代わりのメイド風。

そんなくだらないやり取りでさえ、楽しいと感じる自分もいるから不思議だ。



ーー俺を、待ってたんだろ。


ーーお前はずっと。



「疲れたからさっさと入るぞ」



鍵を取り出して指先で遊ぶ。


拾って貰えるとわかった男は嬉しそうな顔をした。



「お疲れさまア・ナ・タ♪ご飯にする?お風呂にする?それともア・タ・シ?」



擦り寄ってきてはそんな古臭いギャグを口にしておどけている。

朝、目にした雰囲気とは何処か違う気がしたが、勘違いかもしれないと否定しておく。



「飯、それから風呂だ。お前は要らねぇ」


「あーひどーい」



そんなアホらしいやり取りをしながら、オートロックの鍵を開ける。


この部屋にコイツが居るのは後どの位なのだろう。



今日は、確かめよう。


傷が、どれだけ癒えたか。



コイツが出て行く心の準備をしておく為にも。





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