・・短編弐・・

□◆モノ◆
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例えば、100回愛してると言ったとして。


例えば、100回抱き締めたとして。



それでもアイツは俺のモノにはならない。


知らない所で命を張って。

知らない所で優しさを見せて。

知らない所で知らない顔を見せていたりする。



そして。


俺の前では俺用の顔をするだけ。


全部を自分だけのモノにしたいなんて、出来るわけがない願望で。

それでもその欲望だけはどうしても治まりゃしない。


独占欲。征服欲。保有欲。



俺のモノにしたい、って。


どうして思うのだろう。



アイツはモノじゃないのに。





「あれ、銀さんじゃん」



この寒空の下を歩いていれば、誰だって猫背になる。

自分で自分を暖めるように丸くなって歩いていた銀時を見付けた長谷川が声を掛けてきた。



「……いいねぇ長谷川さん、その防寒着」


「そうなんだよー結構温かいんだよねダンボールって。銀さんもよかったらどう?」


「そうだな、人間辞める気になったらお願いするわ」


「いや、人間だけどね。恥や外聞は捨てても人間だけは辞めて無いけどね」



体にダンボールを巻き付けている姿で恥ずかしげも無く声を掛けてきた長谷川に、蔑むような眼差しを送る銀時。

涙目になっている長谷川を見て、少し言い過ぎたかと銀時は薄く笑った。



「しっかし、マジで寒すぎんだろ。いくら酒呑んだってすぐに酔いが覚めちまう」


「そうだよねぇ。なんかこう体の芯から温まるもんが欲しいよね」



北風が吹き抜ける細道を肩を並べて歩きながら、不満げに愚痴る。

帰るでも行く先があるでも無い足取りは、自然と暖かそうなネオン街へと向かって行く。


そして広がる風景の中には、金さえあれば暖を取れるスポットが数限りなく続いていた。



「いいよねぇ金がある奴は。こんな寒い日は人肌恋しくもなるよ」



キャバクラだの如何わしい店だのが仕切りに客引きをしていて、ニヤけた顔の男達が吸い込まれるようにあちらこちらに消えて行く。

それを見ていた長谷川が、深い溜め息混じりに呟く。


男二人で歩いているというのに自分達に声がかからないのは、ダンボールに身を包んでいるおっさんが居るからだろう。

見るからに金がありませんとアピールしている人間に声を掛ける程、奴等も暇では無いようだ。



「……人肌ねぇ。」



長谷川の言葉に銀時は小さな声を漏らす。



「だってそうだろ銀さん!こんな季節はさ、女の柔らかくて温かい肌に包まれたいって思うじゃん!」


「そんでヤレれる店なら体も温まるってか」


「そう!その通り!体の芯から温まるにはそれが最高でしょ!……まぁ、先立つモノが無いけどさ」



頭の中の妄想にはしゃいだ後、自分の現状の虚しさに気付いて項垂れる長谷川を横目に、銀時は白い息を吐き出した。



こんな季節だから仕方無い、なんて。


それは許せる範囲なのだろうか。



「……やっぱ、女のがいいのかね」


「え?」



銀時の呟きに長谷川は不思議そうに聞き返した。

銀時は薄く笑う。



「やっぱ、男にゃ女が必要なのかねって話。」



半ば呆れたような口調になっている銀時に、長谷川は小さく笑った。



「そりゃそうさ、野郎同士は気楽でいいけど結局男には女が必要だよ!」



何も知らない長谷川の正当な意見が自分を追い詰めているように感じる。


気楽。


そう言われればそうなんだろう。



付き合うだの、浮気がどうのだの言い合う間柄では無い。

ただ、会えば体を重ねるだけの関係で拘束も何も出来ない。



気楽、か。



野郎同士はそんな関係でいいのなら。



何故、俺は他の誰も抱く気にはならないのだろう。


アイツは知らない所で。



女を抱いたりしているのに。




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