・・短編弐・・

□◆未完成な僕ら◆
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誰もいない屋上で抱き合ってみたり。


誰もいない教室でキスをしてみたり。



でも、誰かが居る場所では言葉さえ交わさない。

たまに絡まる視線だけが、互いの合図。


そんな関係が何故か刺激的で、勝手に興奮したりしていた。


だからこのままの関係でいたい。



ずっと、このまま。





「お前、A組の女に告られたって?」



キスを交わした唇が離れた瞬間、銀時がからかうような表情を浮かべて問い掛けてきた。

土方は目を細める。



「……誰から聞いた」


「誰っつーか、皆?クラス中で暴露されてたぜその話題」


「総悟だな……あの野郎マジで一回シメてやらねぇとな」



忌々しそうに舌打ちをした土方は、ポケットから煙草を取り出すと慣れた手つきで火をつけた。

そして銀時にそれを手渡せば、銀時も同じように煙草を吸い始める。


ふぅ、と吐き出した二本の細い煙は屋上の空気に消えた。



「んで、どうすんの?」


「……?なにがだ」



二口目の煙を吸い込もうとしていた土方に、銀時が問い掛ける。

質問に合わせて視線を向けると、ニヤニヤした顔をしている銀時と目が合った。



「だから、そのA組のオンナ。付き合うの?」



銀時から振られた話題に、土方は嫌そうに顔を歪める。

どう見ても面白がっている。

クラス連中と同じだ。



「付き合わ無ぇよ。はっきり断った」


「アララ勿体無ぇー、取り敢えずヤル事ヤッてからさよならで良かったんじゃねぇの?」



ホラ来た。


必ずそこには下世話な話題が入ってくる。

野郎の頭の中なんざそれしか無いなんて分かりきっていても、自分はあまりそういう話題は好かないのだ。



「ヤんねぇよ。何かあったらいろいろ面倒だろ」



チャンスさえあればいつでも誰とでもヤリたい年頃とは言うけれど。

好きでもない相手との一度だけの関係にもしもの事があったら、なんて考えただけで勘弁だ。


そんな事で人生狂わせたくは無い。



「ホントお前真面目な。そのストイックさがモテんのかね」


「知らねえよ。別にモテちゃいねぇしたまたまだろ」



気に入らねぇー、と愚痴った銀時が煙草の煙を思い切り吐き出した。


冬空の乾いた空気は煙草に焼かれた喉にピリピリとした痛みを与えて、何処かもどかしいような気分になる。


手に届かない何かに違和感を感じるというか。


それが煙草のせいなら、止めたらいい話だ。



「……お前さ、俺とヤルようになってから女抱いた?」



不意に思い出したような雰囲気で銀時が問い掛けてくる。

その質問にも土方は顔を歪めた。


下世話な話はまだ続いているらしい。



「ヤッてねーよ。つーかテメェに関係無ぇだろ」



壮大に眉を寄せて煙草を思い切り吸い込む。

喉の入り口がチリッと焼けた。


少しの痛みを伴った。




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