・・短編弐・・

□◆2・14→3・14◆
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「……今日は何の日だ?」



自分に手渡された物を見つめて、銀時はひきつった顔で問い掛ける。



「バレンタインデーだろ?」



それを渡した張本人は煙草の煙を吐き出しながら、悠然と答える。



「バレンタインデーっつーのは、好きな相手にチョコレートを渡す日、だよな?」



手に持つ可愛いラッピングのチョコレートをガン見しながら、銀時は問い掛ける。



「あぁ、そうだな」



隣りで脚を組み平然とした顔で答えているのは、土方。



何がおかしいって。


銀時は『その土方』から『このチョコレート』を、貰ったからだ。



「ちょ、ちょ、ちょっと待てェェ!!なんでテメェからこんなモン貰わにゃならんのだ!」



整理しようとすればする程パニックに陥った銀時は、チョコレートを天高く突き上げながら叫ぶ。

隣の男はそんな銀時にも興味が無いようにしれっとしている。



「わかったぞ……!これはテメェが誰かから貰ったもんで、それを俺に横流ししたんだな!」



動揺と混乱で体が小刻みに震えている銀時が、無表情で煙草を吹かす土方に詰め寄る。

土方はゆっくりと煙草を吐き出した後、 ちらりと銀時に視線を向けた。



「そんなんじゃねぇ」



さらっといい放つ一言。

そして、その後はまた伏せ目がちに煙草を口に運んだ。


そんな土方の態度に銀時の混乱は更に増すばかり。



「じゃ、じゃあ……誰か俺に渡してぇって女に頼まれたとか!?」


「そんな物好き居ねえだろ」



予想の第二候補は、口に出した途端鼻で笑われた。


それに微かな怒りを感じながら、銀時はチョコレートを土方に突き出す。



「じゃあなんだってんだ!おこぼれでも橋渡しでも無ぇなら、これは何の嫌がらせだコノヤロー!!」



力の限り叫んだ銀時は息切れした自分を落ち着かせるように、何度も肩で息をする。


銀時のその台詞を耳にした土方は、吸いかけの煙草を道路に投げて靴で踏み消した。



「……偏屈野郎が」


「なにぃ!?」



深い溜め息と共に土方は銀時を横目で見て、突き出されたチョコレートを指で叩く。



「要らねぇなら川に捨てるなりゴミに捨てるなり勝手にすりゃいい」



冷めた声でそう告げると、土方はそのまま背を向けて歩いていってしまった。


一人残された銀時は、唖然とした表情のままその背中を見送る。



――なんですと……!?



何一つ、答えは得られなかった。


土方の背中はどんどん遠ざかり、そのうち人だかりに紛れて見えなくなってしまった。


たまに立ち寄る程度の町外れの茶屋の前。

どうせイベントの主役になどなれないとわかっているから、敢えて人の少ない場所に居た自分の前に男はやってきて。



「こんな所に居やがったか」



そんな腹立つ言い種で自分の隣に座った土方を不思議に思った矢先。



「ほらよ」



まるで日頃から仲の良い友人みたいな口振りで渡されたのは可愛らしいラッピングのチョコレート。



――いやいや、おかしいから。


――アイツがおかしいから。



先程までのやり取りを思い返しても、結局答えは出なかった。


ただ手元に残されたチョコレートと。



なんだか不可解で妙に焦るような気持ちを抱えて、銀時は立ち尽くしていた。




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