・・短編弐・・

□◆伝えたい事◆
1ページ/2ページ





「もう、テメェとはこれっきりだ」



いつも通り。


いつもの、事。


なんとなく夜にふらりと出掛けて、大体で入った店にソイツの姿があって。

それに偶然を装って声を掛けて酒を呑み交わし。

酔った身体を支えるふりしてよく行く店に連れ込み。


いつものように、抱き合って。


いつものように、満足して。


いつものように、煙草を吸い始めた男が。


そんな事を、言った。



「………」



頭が真っ白とはこの事だ。

考える力も無ければ、応対する能力も無い。


ただ、見開いた両目が。


瞬きを忘れているだけ。



――これっきり?



安いラブホテルの陳腐なベットに、自分と同じように寝転んでいる土方は冷めた顔をしている。

チラリと向けられた視線に自分の姿を映すと、小さな溜め息を吐き出して煙草を灰皿へと捨てた。



「……返事する気もねぇ、か。まぁ分かっちゃいたがその程度だったって事だな」



自分の中の予想と結果が当たっていたとばかりに、妙に納得したような呆れたような声で土方は吐き捨てた。


情事の熱も冷めた身体を起き上がらせ、うざったそうに掛け布団を剥ぎ取るとベットから這い出る。


その動きを、ただ開きっぱなしの自分の双眼が追っていく。



「そこまで馬鹿じゃねぇと思うが、今までの事は他言するんじゃねぇぞ」



着流しを羽織ながら背中を向けて、念を押すように言う。


一度だけ瞬きをした。


眼球の水分が限界だった。


口も開いたままだ。



「……もし、誰かに喋ったらテメェを殺す」



帯をきつく締めて、土方はこちらに振り返る。


その眼差しは冗談でもいつもの口喧嘩も無く。



本気の殺意を込めた瞳だった。



――な、んで?



名前を持たない曖昧な関係。


だけど、お互いに明確な名前がついた繋がりを求めていないのだと思ってた。


だから、身体を繋げる度に湧いてくる固執した感情は知らないふりをして。


今の今まで。


いつものように。


これからもずっと。


そんな二人で居られたら、と思っていた。



だって土方は、俺を独占したいなんて思っていないだろう。


いつも気紛れを装って、いつもただの性欲処理を装って。


いつも。


そこに特別な感情を持たないように、必死で振る舞って来たんだ。



――だから?


――終わり?



嫌だ。


終わらせたくない。


嫌だ。



まだ。


もっと。


ずっと。


お前と、繋がっていたい。



何も言わない自分を見限ったように目を細めた土方が刀を腰に収めて背を向ける。


その背中が部屋を出て行ってしまうのだと、知って。



俺は、必死に手を伸ばした。





.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ