・・短編・・

□◆侵食願望◆
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こんなに欲しいと思っても。



手にした確信が持てない。



いつまでも安心出来ない関係に。


永遠はやってくるのだろうか。





不安を抱えてまで欲しいのか。



疑問を抱いてまで手にしたいのか。





簡単じゃないとわかっていても。



簡単じゃないから自分のモノにしたいのか。





この感情の終着点が見えない。






だからさ迷う。






いつ来るかわからない終わりまで。











今日、野郎を街で見掛けた。





アイツの周りにはいつものガキ二人の他に、理由は仕方ないのだが自分に会う度に嫌な顔をするキャバ嬢。



そしてその団体の後ろにはストーカーメガネの女がアイツに張り付いている。




その顔は面倒臭そうに歪められたり。


怒ったようにしかめられたり。


嬉しそうに微笑んだり。


楽しそうに綻んだり。



見ているだけで百面相していて感情の変化が見て取れる。




でもそこにある強い土台になっているのは幸福。



心の安定と言ってもいいだろう。



アイツにそんな顔をさせられるのはきっとあの人間達だけで。


アイツが存在する度に、きっと増えて行く。





そこに自分が収まる事は無い。



入りたいわけでも無い。





ただ、違うんだと。




ああは成れないんだと。




それを知るだけで。





酷く、心が冷めて行く。






何故、アイツは俺を選んだのか。



その中には入る事が出来ない俺を。




幸福の土台があんなに明確に出来ているのに。



何故、俺なんかを求めるのか。



それが性欲だけだというなら話は明るい。



なのに触れられる度にアイツから零れてくる心の雫には熱いものが含まれていて。



それを知る度、自分が自分じゃなくなるような眩暈を起こす。





ーーアホ臭い。





結局こんな遠い場所から微かに伺う程度しか見つめる事さえ出来ない自分に。



一体、何が出来るというのか。




体を合わせる度にその答えを問いたくて必死にアイツを睨みつけるのに。



それに対して返されるのは余裕に満ちた微笑みで。





「俺、お前が好きだよ。」





なんて簡単に口にする。




だから信用出来ない。




かといって、そこで自分は嫌いだと言う事も出来ない。



アイツの言葉があまりにも軽すぎて。



その言葉を拒否するという事は、自分だけがその言葉を酷く意識している事を露呈するようで気に食わない。





「お前は?俺の事好き?」





鼻で笑うような見下した目で。



自分の体を好き勝手に弄り倒しながらそんな事を言われて。





ーー殺してやりたくなる。





そう執着している自分も気に食わない。



殺したい程に、アイツに自分の感情を支配されている事実が無性に腹立たしい。




こんなに体を交わらせているのに。



こんなに心が通わないのは何故なのか。




お前が俺を侵食する度に。



お前に食われていくような恐怖さえ感じるのに。




俺ばかりがお前に捕われている気がしてならない。




アイツの精液が体に吐き出される度に血が、肉が。



銀色に染められてしまいそうだ。




なのに、アイツは何も変わらない。




何度もこの体にアイツを埋め込ませても。




染められて行くのは己だけで。




あんな野郎に自分を変えさせられた、なんて死んでも思いたく無い。




なのに、やはり求める。




どうしても手に入れたくて。





アイツの生きる土台が。




俺の隣にもあるのだと気付かせたい。




俺無しでは生きていけない、なんて言わせてみたい。




アイツが俺のモノだという確証が欲しいのか。



自分よりもアイツの方が俺に夢中だと、勝ち誇りたいのか。




自分の求める欲望の先がわからない。





それでも手放せ無い。





明確なのは。





自分があの野郎に侵食されているという事。





そのうち俺の髪もあの忌ま忌ましい銀色に変わるのでは無いか、なんて思う。



爆発頭だけはゴメンだ。





憎たらしいから。





 
 
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