・・短編・・

□◆花火◆
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大きく大きく打ち上がって。



一瞬で散ってさようなら。



それでも心に残るなら。






その一瞬は生きた証になる。





大きく大きく花開いて。




くたばる姿が名残惜しいと。





そう感じて貰えたら本望。





貴方の心に咲き続けます。






花火のように一瞬を。






美しく飾り付けたい。







一瞬だけでも、いいから。













「土方さーん。準備完了ですぜィ。」




気の抜けた声に揺り起こされて目が覚める。


もう何度となく聞き飽きる程に聞いているのに目が覚める瞬間だけは少し心地好いと感じられる声。



だが、現実は甘く無い。






「未成年を深夜までコキ使っておいてテメェは居眠りたぁ、随分副長様はお偉いんじゃねぇですかィ?」




声の主である沖田は不機嫌な表情で仮設テントの机に突っ伏して眠っていた土方を見下ろしている。



昼間あれだけサボりで居眠りをしていた奴に偉そうに言われる筋合いは無い。



自分は昨日から徹夜だったのだ。



眠れなかったから。





だから交代までの少しの間、仮眠をとった所で文句を言われる謂れは無い。





が、コイツには通用しないのも知っている。





「……うるせぇ。守備は?山崎はどうした?」




土方は怠そうに頭を起こすと、仁王立ちで自分を睨んでいる沖田にぶっきらぼうに聞いた。


起きぬけに煙草をくわえる。



目を覚ますにはこれが一番いい。




「守備は上々。ザキなら近藤さんに連れられて屋台巡りでさァ。」




テント前にはもうすぐ始まる花火を前に、出店に群れをなす人々がいる。


浴衣姿でうちわを持つ人々はとても楽しそうで、自分の気分とは雲泥の差だった。






俺の今の気分は最悪だ。





目の前のこのクソガキのせいで。




「近藤さんは許せても山崎のヤローは調子に乗ってやがんな。戻って来やがったら切腹だ。」




悪態をつきながら、怠い体をパイプ椅子の背もたれに預ける。



途端に腰の辺りがビキッという嫌な痛みを訴えた。




きつく眉が寄せられる。




不機嫌そうな空気を醸し出している土方を見て沖田はため息をついた。



そのまま無言で土方の隣のパイプ椅子に乱暴に腰を下ろす。




途端に土方の体がビクリと跳ねた。




沖田はそんな土方を横目でチラリと見た後、視線を前に戻した。





花火はこの仮設テントからは見えるのだろうか。




生い茂る木々達が邪魔をしそうな気がするが、大玉が上がれば見えるかもしれない。





自分が隣に座った途端、無言になっている土方が視界の隅に映る。



煙草を吸う事でごまかしてはいるが、足元はそわそわと足組みを繰り返しているし手元も落ち着きが無い。





それがイライラでは無い事は知っている。





多分、どうしていいかわからないんだろう。





戸惑い、疑問、不満。




どれも口にしたいのに、言ってはいけないものなのでは無いかと土方自身も困惑しているのだろう。




だが、自分はまどろっこしいのは大嫌いで。




それをした意味も理由も当然わかっている。






だからこそ、一瞬だけでいいから。



一度だけでいいから自分のものにしたかっただけだ。







「言いたい事があるんならはっきり言ったらどーですかィ?」




黙ったまま苦い顔をして煙草を吸い続けている土方に問い掛ける。


自分の問いに隣の席の男が突然噎せ始まった。





きっと、予想だにしなかった自分からの話題振りに息がうまく吸えなかったんだろう。



隣でゲホゲホと騒がしい土方に視線を向けて冷めた目で見つめる。



「漸く肺ガンになりやしたかィ?心配しねぇでも苦しむ事無くあの世へ逝かせてやりやすぜィ。」





咳込む胸と、何故か腰を押さえている土方の姿の意味を自分は知っている。


だが、優しくするつもりなんて無い。




「……ゲホッ……だれの、せいだと、思ってんだっ…!」




途切れ途切れになりながら、漸く言葉を発した土方は恨めしそうに沖田を睨みつける。



生理的に目に浮かぶ土方の目に溜まる涙が、昨日の姿を自分に思い出させて映像がフラッシュバックする。




あの一瞬だけは、自分のものだった。





それがどんな結果になっても、だ。




 
 
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