・・短編・・
□◆夏日和◆
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夏真っ盛り。
7月某日。
腹立つ位に夏日和。
体の毛穴が完全に開き切っていて汗がいくらでも吹き出す。
頭上からは嫌がらせのように太陽の灼熱の日差しが降り注いでいて公開拷問を受けているように感じる。
なにもこんな場所でさえ、この暑苦しい隊服で居る必要は無いんじゃなかろうか。
目の前を行き交う人々は殆ど裸に近い格好でうろついているのだから、自分達だけが太陽光を集める真っ黒な服を首から指先まで纏う必要は無いんじゃないのか。
ーー……あぁっ……つい……。
先程から垂れ流している汗を拭うのも無駄な気がして、ただただ好きにさせている汗も目に入れば痛いから拭う。
だが、拭う長袖は太陽光を充分に浴びた黒だから顔に寄せただけで更に汗が吹き出る。
堂々巡りな気がして山崎は深いため息を吐き出した。
視界に広がる風景は楽しそうにはしゃぐ家族連れやイチャイチャしているカップルなど、自分の今の気分を逆なでするような幸せそうな人々が溢れている。
クソ暑いこの季節には最高なのだろう。
水しぶきが舞う、大江戸プールはたくさんの人で賑わっていた。
そして、その大江戸プールの一角に設けられた救護センターに山崎を始めとした真選組の隊士達がこの暑い中、いつもの隊服で警護にあたっている。
普段ならプールごときに真選組が介入する事は無い。
今日だけは特別。
何故なら、そよ姫様が此処に遊びに来るからだ。
「山崎ィーかき氷買って来いやァ、ブルーハワイな。」
炎天下の中立ちっぱなしの山崎の後ろ、日陰のテントの中で専用扇風機の風を受けながら怠そうに足をテーブルに投げ出し座っている沖田が命令する。
山崎はチラリと視線を向けた。
「……沖田さん金は?」
死にかけに近い山崎の力無い言葉に、沖田はニヤリと含み笑いを浮かべた。
「買ってきたらお前もテントの中で休む権利をやるぜィ?有り難く思えや。」
上司の権力振りかざして言う傲慢な態度のハズなのに、今の自分には確かに有り難い話だった。
太陽と決別してやりたいくらい、十二分にその存在の暑苦しさは思い知ったからだ。
「……はいよ。」
沖田の言葉に山崎は引きずるような足取りで出店へと向かって行く。
そよ姫様が到着するまで予定では後30分はある。
その間少しでも涼んでいたい。
何処へ向かって歩いてもサンサンと照り付けてくる太陽を睨みながら、山崎はかき氷の看板を目指して歩く。
時折、楽しそうに水の中ではしゃぐ子供達の奇声が響いては苦い顔になる。
ーープールなんか城の庭にいくらでも作れよなぁ……。
そう思いながら、城の中のプールでは姫の望みが叶えられないのも知っている。
だからわざわざこんな市民達が集まるプールなんかに出向いて来るのだ。
山崎は出店でかき氷を二つ買った。
ブルーハワイとレモン味。
たかだか数百円で日陰に座れるのだから確かに安いものだ。
黒い隊服は太陽光を吸収する。
自分の体からは汗がとめどなく流れて落ちる。
早く日陰に行こう。
山崎は踵を返して沖田の待つテントへと急いだ。