・・短編・・

□◆君の左手◆
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これでも結構、悩んだのよ?





言ってもいいモンか、言わない方がいいモンか。


確実に後者が正しいんだろうけどなんだか口から出てしまった。




あまりにも、君の左手が温かかったから。







「先生さ……土方の事好きみたいなんだわ。」



「あ、俺もです。じゃあ失礼します。」





口にしてしまった瞬間に、ヤバイ!と慌てふためくようなシチュエーションのハズなのに。


間髪入れずに返って来た言葉と、顔色一つ変えずにあっさり言い放つ姿に、呆気にとられてしまった。



軽く会釈をして、後ろを向いてしまった背中を呆然と見つめる。






ーー………なぬっ!?






「いやいや、土方くん!?ちょっとおかしいでしょそれっ!言葉の意味わかってる!?」




そんな非日常的な会話のやりとりが繰り広げられたにも関わらず、本当に何事も無かったかのように日誌を手渡したらさっさと部屋を出て行こうとする土方の背中を慌てて呼び止める。



立ち上がった拍子に椅子が床に転がってガシャガシャと騒がしい音をたてて、車輪が回っている。


自分の無様な姿を見て笑い転げているように見えて気に食わない。



いや、そんな被害妄想よりも今は必要な事がある。


秘密にしたいのについ本音を零してしまったのならそのままスルーされてうやむやにしてしまった方がいいハズなのに。



あろう事か、土方の返事は拒否では無かった。


だからどんな意味なのか確認したくて仕方が無い。



フラれる確率が99%だとしても、曖昧なままじゃあ後味が悪いから。






ーーじゃあ残りの1%は…?






「一応人間のつもりなんで理解出来ましたけど?」




呼び止められた事さえ不思議だと言わんばかりの冷静な顔をこちらに振り向かせて、この生徒は素っ気なく答える。



今はツン状態?


つーか、なんでそんな冷静?


照れ隠し……には見えない。





「えー……っと、あれだよ?あの、俺が言ってるのは、つまりな?恋愛感情としての好き…なのよ?」




『好き』という言葉も意味はいろいろある。


生徒として、好きだとか。


男として、好きだとか。


好きか嫌いかと聞かれればどちらかと言うと、好きとか。


人は嫌いだけど歯並びは、好きとか。



あ……なんか意味わかんなくなってきたわ。




ともかく。




俺の好きは告白の類いの『好き』である事。



ちゃんと、理解して貰わなければ。





銀時の言葉に土方は出入口のドアを背もたれにして腕組みをした。

顔はいたって冷静。



感情が見えないのは怖いモンだ。




「ガキ扱いすんじゃねーよ。要は俺とセックスしたいと思う『好き』だろ?」




真顔の高校生からのとんでもない発言に、銀時はマンガみたいにブッと唾を飛ばして吹き出した。




「ちょっ、おまっ…セックスってあからさま過ぎんだろ!何言ってんだお前!……え?てか、させてくれんの?」




机の前に立ち尽くしていた体がついつい土方に向かって一歩ずつ前進してしまう。




あれ?お互いの気持ち確認をすっ飛ばしていきなりセックス?


いや、全然いいけど。アリだけど。ありがたいけど。是非お願いしますけど。





ーーあれ?ホントに?



ーーあの答えはホントか?





ゆっくりと確実に近付いて来る自分に漸く表情を変えたと思ったら、嫌そうに眉間にシワを寄せた顔をした土方。




あぁ、からかったというか。


気色悪ィんだよクソ教師。


みたいな発言をする前の余興だったのか。



1%に期待し過ぎてしまったようだ。



イカン、イカン。



大丈夫、まだ俺の冗談でやり過ごせる範囲だ。






「させてくれるって何だよ。アンタが俺を好きなんだろ?じゃあ俺に抱かれろよ。」







あ、そーですよねぇ。




はいはーい。




………じゃ、無くて……。





はぁぃぃぃぃぃぃぃ!?





さっきから芸人並に心の中でノリツッコミ。


心臓が目まぐるしくてバクバク騒ぐ。



一応、僕も人間のつもりなんで言葉の意味はわかってるつもりですが。




その発言、いいんですか。



そういう意味で、いいんですか。



その1%が。




叶ったという事でいいんですか。





 
 
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