・・短編・・
□◆独り言◆
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此処に居ればきっと、とか。
あの道を通ればいつか、とか。
そんな事を無意識に考えるようになってしまったのは、いつからなのだろう。
此処から見える景色の中に、あの男を象徴する色を探す。
何にも染まらないんじゃなくて。
何にも染められる事を必死に拒む、漆黒の色。
最大限に肌を隠すその衣の下。
真っ赤な血と熱が通ってるのを、俺は知っている。
『血も涙も無い鬼』
いつの時にか。
すれ違い様の他人がアイツの事を、そう毒づいた時もどうにもしっくりこない気分だった。
何も知らない奴に何を言われたって構わない。
きっと、こいつもそう思ってるだろうと思ったから。
似ていると言えば、似ているのだろう。
思考回路なのか行動パターンなのかよくわからないが、よく鉢会う率を統合すればなんか似ているのだろう。
だからなのか、『こいつが今何をしたいのか』とか『何を言いたいのか』とか、結構わかってやれてる方だと思う。
まぁわかったからといって、汲み取った全てを叶えてやるとかそんなんじゃ無いけど。
何気に分かりやすいというか単純というか。
そういう今まで知らなかった部分を知れば知る程に、もっと知りたくなっていくのも不思議なもので。
だからといってどうして知りたいのか、なんて理由を掘り下げたりなんかしない。
多分、それをしたら終わりだ。
そう予感する自分の危機察知能力は信用に価すると思うから。
例えば、テレビ番組でクイズをやっていると、自分が何処まで答えられるか試したくなるみたいな感じ。
挑戦というか好奇心というか。
きっと、そんな感情が自分をアイツに執着させているのだろう。
俺なら、わかるとか。
アイツなら、わかってくれるとか。
別にそんな傲慢な特別視とかをしてるわけじゃないけれど。
此処に居ればきっと、とか。
あの道を通ればいつか、とか。
頭の隅にこびりつく行動理由に、アイツが存在する。
これが興味というものならば、なんて面倒臭いのか。
その興味や好奇心で自分の行動も思考も左右されてしまうなんて、情けない。
自分に主導権があってこその興味だ。
相手に主導権を握られてしまったら、それは興味じゃない。
惹かれている、と。
「……な、わけねぇだろコノヤロー」
自分の目の前を行き交う人々の群れにガン垂れながら、固定対象も無い文句を零す。
勿論、自分の言葉を聞いて喧嘩を売ってくる奴なんか居ないから、さっきの言葉はただの独り言になって喧騒の中で死んだ。
自分の脳内を巡るグダグダな独り言に文句を言いつつも、この場所から離れないで居るのは何故なのだろう。
別に特別涼しいわけでも、特別贔屓にしてる店でも無いけれど。
「最近よく来るねぇ銀さん。でも毎回、ツケばかりじゃ困るんだけどなぁ」
そこそこ馴染みの店主が大して取り立てる気のなさ気な言葉を口にしながら、茶のお代わりを注いでくれる。
此処が最近のお気に入りになっているのは、アイツと出会う確率が高いから。
出会いたいとかじゃなくて、きっと此処にアイツが来るだろうっていう自分の予想を的中させたいだけなのだろう。
出会いたい、とかじゃなくて。
銀時は熱めの茶をのんびり啜りながら、行き交う人々をぼんやりと見つめる。
そこに現れる黒い姿の殆どが、アイツじゃないあの制服。
そこに茶色のサラサラヘアーが現れてこちらを見た。
アイツが来る予感も、引き連れて。