・・短編・・
□◆−隣−Side土方◆
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そこが温かい場所だと知っているから。
そこが安心出来る場所だと知っているから。
いつもあの人の周りには人が絶えない。
俺は独りで、その姿を見ていられればいい。
そう思ったいたけれど。
自分の隣も。
騒がしい奴らに囲まれているのかもしれない。
「…あの野郎っ…どこ行きやがった…!!」
春の風が穏やかに肌を撫でる季節。
凍てつく冬の寒さから抜け出した春を祝うように鳥達も綺麗な歌声を止む事無く奏でている。
だが、この男はそんな季節の移り変わりの喜びなど微塵も感じない、鋭い眼光で辺りを見回している。
土方はくわえ煙草に苛々した表情を浮かべながら、獲物を狙うように辺りに隈なく視線を投げる。
一緒に巡回に回っている沖田が雲隠れした。
理由はサボり以外の何ものでもない。
たいてい大事が無いと踏んだ時には、あいつは決まってふらりと単独行動を取る。
その読みは当たるのだが、その度に沖田捜索を課せられる事が異常に腹立たしい。
「マジでぶん殴りてぇ…。」
まだ吸える長さの煙草を怒りに任せて投げ捨て、新しい煙草を取り出す。
全身から苛々が漂う土方の背中に山崎が近付いてきた。
「副長、そろそろ戻らないと会食の時間に遅れます。時間管理くらい自分でしてくだ……いてぇ!!!」
今日のスケジュール管理も兼ねてお供している山崎の言葉を最後まで聞く事無く、土方は山崎の頭に拳を叩きつけた。
「…何するんですかっ!? 」
普通に喰らっても痛いげんこつを不意打ちで受けてしまった山崎は涙目になりながら叩かれた後頭部を両手で隠し、叫んだ。
「そんな事ぁわかってんだよ。だから後を任せる為に連れてきた総悟のアホ捜してんだろーが。」
土方の怒りの眼光に、山崎はひっと後退りする。
「大体てめぇはなんだ、秘書気取りか?てめぇの今日の仕事は俺の補佐だろ。職務全うしてきやがれぇ!」
土方の怒鳴り声と共に繰り出された蹴りで、山崎は建物の路地裏へとその体を飛ばされた。
「…ったく、どいつもこいつも…。」
−−苛々する。
土方は煙草を地面に投げ捨て、足でギリギリと踏み消した。