・・短編・・
□◆クローン◆
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人間の体は一つしか無い。
頭で考え。
目で書類を見て。
右手でペンを握り。
左手で煙草を持ち。
右足と左足でカタカタと貧乏揺すりをする。
俺の体で出来る事は、今埋まってる。
苛々が収まらない。
−−なんで俺の体は一つなんだ。
もう一本腕があれば溜まった灰皿を捨てたい。
もう二本足があれば足だけ取り出して残り少なくなった煙草を買いに行きたい。
そんな不可能な馬鹿げた事さえ考える位、苛々している。
−−なんで俺の体は一つしかないんだ。
やる事が多すぎて。
やらなきゃならない事が多すぎて。
クローンでも作って欲しい位だ。
土方は額に青筋を立てて、目の前の机に束になっている報告書を睨みつけた。
「副長、山崎です。」
殺気さえ漂う土方の部屋に、廊下から声がかかる。
いつの間に居たのか来た事に気がつかなかった。
まぁ、それ位こいつの存在は薄いって事だろう。
土方はため息を一つ吐いてから、煙草を山盛りの灰皿へ押し付けた。
「入れ。」
「はい。」
土方からの返事を待って、山崎は障子を開けた。
途端に、むせ返るような煙りで真っ白になっている土方の部屋に山崎は嫌な顔をした。
「副長、吸い過ぎですよ。換気位してください。」
山崎は障子を全て開け放ち、手でパタパタと煙を追い出す。
土方は山崎をギロリと睨みつけた。
「んな事に気を回す暇がねぇんだよ。」
大体、障子を開け放っていて、風で書類が飛んだり吸い殻が飛んだりしたら。
それこそ怒りで爆発するからだ。
余計な手間を増やす事になる。
土方の苛々が伝わる睨みを見て、山崎は小さくため息を吐いた。
「それさえも暇が無くて体壊したら元も子も無いですよ。」
あくまでも自分の言葉に反論してくる山崎を見て、土方は睨むのを止めた。
そんな時間も勿体ないからだ。
ただ、更に苛々させられたのは間違い無い。
ふて腐れ顔でぷいっと机に向き直った土方を見て、山崎は薄く笑った。