・・短編・・
□◆紐パン事件◆
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俺が今、手に持っているものは。
一体、なんなのだろうか…。
その『モノ』自体を知らないわけではない。
嫌、手に持つのは初めてだけれど。
何故、それを今自分の手で握り締めているのか、わからない。
真っ赤なレースの紐パンを。
−−−まてまてまてまてまてぇぇ!!!!!!
洗いと濯ぎを終えた洗濯物を入れたカゴを抱え、山崎は独り膨大な冷や汗をかいていた。
見つめる先には、自分の右手に握られた紐パン。
−−なんなんなんな、なん!?!?!?
山崎はパニック状態の頭でぐるぐると同じ疑問詞を巡らせる。
一行に、解決の糸口が出て来ない。
−−嫌、待て。落ち着け俺!!
山崎は深呼吸をした後、今までの流れを思い返す。
一時間前。
「おぃ、山崎!俺の洗濯物洗っとけ。」
自分の洗濯物を洗おうと、廊下をだらだら歩いていた自分を土方が呼び止めた。
山崎は面倒臭そうな嫌な顔をした。
「副長ーちゃんと今週の洗濯担当割り振りしてるじゃないですか。そのカゴに突っ込んどけば担当がまとめて洗ってくれるでしょう?」
山崎は自室から首だけを出して命令する土方に文句を言った。
大体、組の洗濯担当を毎週決めてんのはあんただろ。
なんでわざわざ俺にやらせるんだよ。
山崎の反論に土方は不満そうな顔で睨みつけてくる。
「他の奴らのと一緒にされっと面倒臭ぇんだよ。誰のだかわかんねぇ靴下とか混ぜられて嫌なんだ。」
土方の言葉に山崎はため息を吐いた。
山崎が自分の洗濯を自分で洗うのにはわけがある。
監察という仕事上、いろんな種類の服を用意しているし、密偵ともなると宿に大量の着替えを用意しなくてはならない。
自分の仕事上仕方なく自分で洗っている俺に、何故押し付ける。
山崎はなんだかんだ理由をつけて、土方が自分に洗濯物を洗わせる理由をもう一つ知っている。
俺が手洗いなのを知ってるんだこの人は。
洗濯機では無く、手洗いで着物を洗う。
生地が傷まないし、絡まない。
俺のそれを知ってからはいつも俺に押し付けるようになった。
−−自分のパンツ位、自分で洗えよなぁ。
山崎は文句を並べながらも、どうせやらなきゃならない事がわかっているので、渋々土方の部屋に置かれた洗濯物のカゴを受け取った。
「丁寧にな。シワ伸ばせよ。」
やってもらう身分で一言多い副長にイラっとしながらも、山崎は無言で洗濯場へと向かった。