・・短編・・
□◆=の図式◆
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それまでは。
ただ名前のついた物だったのに。
いつしかそれを見るだけで。
特定の人物を思い浮かべるようになった。
=(イコール)が浮かぶ度に。
逢いたくなる。
これって愛かな?
今手に持つ物。
これはただの紙切れだ。
渡した相手からしたら、この物の名前は『デザート無料券』。
そしてこれを手にした瞬間に浮かぶのは一人の男の顔。
甘い物=アイツ
その図式が頭に組み込まれてしまっている自分がかなり馬鹿らしい。
そして、面白い。
「土方さん行きますぜィ。」
昼飯を終えたファミレスの出口に立ち尽くしている土方の後ろから後から出てきた沖田が声をかける。
「おぅ。」
土方は会計の時にウェイトレスから渡された『デザート無料券』をじっと見つめていたまま固まっていた自分にようやく気付き、その券を急いでポケットに捩込んだ。
煙草に火をつけて歩き出す土方の背中を、沖田はニヤリと笑って見つめた。
「その券、旦那にあげるんでェ?」
からかうように土方の肩に顎を乗せて聞いてくる沖田に、土方はギョッとした。
「何がだよ!なんで俺があのクソ野郎にやらなきゃなんねーんだ!」
若干顔が赤いのは隠しきれない。
−−図星だろォ。気持ち悪ィ。
沖田は苦笑いしながら土方のポケットにくしゃくしゃに突っ込まれた券を取り出す。
「土方さんどーせ使わねぇんでしょ?貧困の旦那にあげればいいのによォ。」
「…っ、返せ!俺が使うんだよ!俺だって甘い物が無性に食いたくなる時ぐれぇあるんだよ!」
土方は沖田の手に握られてしまった券を慌てて奪い取る。
そんな土方を見て沖田は嫌そうなため息を吐いた。
「あんたといやぁマヨか煙草でしょうが。それ以上あんたの好物を作らねぇでくだせぇ。俺の嫌いな物が増えちまいまさァ。」
沖田の言葉に土方の口元が引き攣る。
−−俺が好きな物はお前の嫌いな物ってか?
土方は何故か悔しいような気分を抱えて両手をポケットに突っ込み、歩き出した。
ポケットの中の指に券が触れる度に、頭に浮かぶのは一人の男だった。
−−馬鹿みてぇに顔綻ばせるんだろうな、あいつ。
想像しただけで笑えてしまう。
−−しゃーねーからくれてやるか。
土方は微笑みながら煙草の煙を吐き出した。
沖田はその横顔を見ながら眉を寄せる。
「……気持ち悪ぃツラしやがって。」
−−旦那の事を考えているらしい。
阿呆臭い。
沖田は吐き気が上がってくる口を必死で手で押さえた。