・・短編・・
□◆淡◆
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『明日来いよ。』
−−自分が悪い。
『来いよな。』
−−自分が悪いんだ。
『来なかったら……』
−−一度の過ちが全ての元凶。
『お前との事、バラしちゃうよ?』
妖しい笑みをあのツラに浮かべて、奴は言う。
口元に人差し指を添えてニタリと笑う。
たった一度。
酔った勢いで関係を持ってしまったあの野郎に。
ズルズルと足を捕られている。
底無し沼に捕えられたこの足は。
どうすれば這い出せるのだろうか。
この馬鹿げた関係のピリオドは。
いつになったら打てる。
−−弱みが欲しい。
この関係を断ち切れる位の。
アイツの弱みが欲しい。
ただの性欲処理のくせに。
忌ま忌ましい程に自分に執着してくる。
自分の弱みを握っている事が楽しくて可笑しくて仕方が無いんだろう。
−−自分が悪い。
深酒に足を取られ、朦朧とする意識の中でアイツが誘ってきた。
『気持ち良い事してみる?』
酔っ払った赤い顔に、細められた目で見つめられ。
正直、体が震えた。
それがアイツの思う壷だった事にも気付かずに。
俺はアイツと寝たんだ。
今思い返しても馬鹿な話だ。
酔っていたからって。
なんで男と行きずりの関係を持ったのか。
しかも、あの野郎に。
−−俺が悪い。
一瞬でも。
酔った勢いでも。
アイツがどんなツラするのか見たいなんて。
思った俺が馬鹿だった。
体を合わせながらアイツはいつも笑う。
『変態だな、お前。』
そう馬鹿にしたように嘲笑い、俺を組み敷く。
−−俺が馬鹿だったんだ。
アイツに見られていない部分はもう無い。
後は心だけ。
その最後の砦を崩される前に。
この馬鹿げた関係を終わらせなければ。
−−弱みが欲しい。
この関係を終わりに出来る何かが。
アイツの弱みが欲しい。