・・短編・・
□◆愛情と絶望◆
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この胸に秘めるは、愛。
この胸に込めるは、心。
救いようの無い己を知るは。
只、絶望なり。
明日を歩く足の裏には。
真っ黒な染みと浸み。
腹をもたげる感情が愛情なら。
この先にある場所は絶望のみ。
己が腐敗していくのなら。
只、本望なり。
何も代わり映えしない風景を目に映す。
いつだって暗がりでしか拝めないこの薄汚い部屋の天井はぼやけた明かりがチラチラ揺れているだけでなんの感情も湧かない。
自分の裸体を包む布団でさえ、いつ干したのだと聞くのも面倒になるくらいに平べったく質素なものだ。
どう考えても、好きな相手にする行為では無い。
そんな事を思う自分の脳みそに笑いが漏れる。
自分だってそうだ。
愛だの恋だのを一番億劫だと思っている自分が招いた関係。
始まりはいつだって不可解で、継続する意味はいつだって不明解だ。
ならば何故、俺はこの汚い煎餅布団の中でこんな男の横に居るのだろうか。
家主である隣の男は情事が終われば勝手にすぅすぅと寝息を立てて眠っている。
いつもの事だ。
事が終われば興味など無い自分を見る事も無く、横を向いては眠りに入る。
その姿を確認してから自分はいつも着替えを済ませ、この部屋から出て行くのだ。
別になんの約束も無い。
別になんの決まりも無い。
ただ、不可解に始まった体だけの関係を続けている事に疑問が生まれてきただけだ。
セックスをすれば気持ちが良いのは確かで、性欲が満たされればそれなりに満足感もある。
だが、その度に生まれてくる思いは大きくなるばかりで。
−−空虚。
情けないんだか、やる瀬ないんだか、もどかしいんだか、息苦しいんだか。
腹の底から擡げるいいようの無い感情が嫌な後味を残す。
銀時の後頭部を睨みつけ、煙草を灰皿に押し付ける。
−−嫌なら止めればいい。
そう思う自分の感情は嘘では無い。
どうせ体だけの関係だ。
事が済めば背中を向けて眠ってしまう男の感情など、誰にだって明白だ。
−−興味、無い。
性欲さえ満たされてしまえば自分になど興味無いと言われ続けている。
服を纏う事もせずに布団の中でそのまま眠りにつく男の感情を理解出来ない程馬鹿では無い。
一番理解出来ないのはこの男はそんな奴だとわかっていて、それでも会いに来る自分だ。
この胸に宿る思いは、なんだ?
それを確かめてみるか。
それとも気付かないフリをしてまたこの男と体を繋げるのか。
土方は新しい煙草に火をつけた。
いつもは一本吸って早々に立ち去る自分。
今日は二本目を口に運ぶ。
背中を向けている男がもぞりと動いた気がした。