・・短編・・

□◆星空の悪夢◆
1ページ/9ページ

 
 



今考えれば。


昨日の空は異様だった。



夜の空の色は黒では無かったのかと思う程に空には無数の星が浮かび、数え切れない流れ星が地上へと降り注いでいた。




「銀ちゃーん!見て見て!すごいアル!!」




余程急いでいたのだろう。万事屋の玄関を開けっ放しにした神楽が裸足で空を見上げて叫んでいた。



もう深夜に近付いているという時間なのに、この異様な風景に歓喜の声をあげ大勢の人間が外に出て来ては空を見上げている。




「おーすげーな。流れ星の出血大サービスじゃねぇか。こりゃ明日のパチンコは当たりだな。」




神秘的な景色を見上げても、銀時の口から出る言葉は己の欲望と願望に満ちた発言のみだった。




「流れ星に願いを言うと叶うって本当アルか?本当なら今日願い事言えば叶い放題ネ!!」




流れ星に感動しているのかと思いきや、結局神楽もそこにある目的は私欲に塗れていた。




「お、叶うんじゃね?どうか明日のパチンコで大儲け出来ますように…家賃がチャラになりますように…。」



「酢こんぶ寄越すアル…酢こんぶ寄越すアル…酢こんぶ寄越すアル…。」




万事屋の二人は流れ星に両手を合わせて願いを唱える。



それは神頼みの時の格好だとツッコミを入れる人間は今は居ない。




「なーんかいい事ありそーだなマジで。」




勝手な自己満足を終えた二人は満足げに空を見上げた。







この不思議な夜空は江戸全域で話題になった。





「姉上!凄い流れ星ですよ!」



「あらホント。綺麗ねぇ。」




志村家でも庭に佇み、空を見上げる新八とお妙が居た。



無数に降って来る流れ星に新八の眼鏡は黄色に染まっていた。







「土方さん。すげー星ですぜ。」




市中巡回中の沖田が周りが見上げている空を確認して、土方に言う。




「なんだコレ…すげーな……。」




煙草の煙でも掻き消えない量の流れ星を見て、土方も驚きの声をあげる。




「どっかの輩の奇襲攻撃だったりして。」




沖田が流れ星を見ながらニヤリと笑う。



土方もニヤリと口元を歪めた。




「だとしたらとんだロマンチック野郎だな。ツラ拝みてぇもんだぜ。」




二人共、これが奇襲攻撃などと思ってはいない。



ただ、この星空を綺麗だと素直に言えるようなタマでは無いだけだ。




「案外、本当にどっかの天人の攻撃かもしれやせんぜ?」




沖田は星空から視線を外し、ゆっくりと歩き出す。



土方も新しい煙草に火をつけてその後ろを歩き出した。




「あれが無数の砲弾だったら逃げようが無ぇな。」




土方はクッと苦笑いした。





ある意味。



これが本当に、避けきれない砲弾だったとは。





口にした本人も。





勿論、知らなかった。







 
 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ