・・3Z・・

□□恋人ごっこ□ーDecemberーHalfA
1ページ/21ページ

 
 



夢を見た。





馴れない合宿所の二人部屋で。




原田のいびきを聞きながら中々眠れなかったはずなのに。





眠らせようとする本能は。





微かな睡魔にも映像を織り交ぜてくる。






白い白衣がチラつく度に目を覚まそうとするのに。





その姿を見たいと思う真相心理が邪魔をする。







『ひじかた』






名前を呼ぶ声は穏やかで。




その響きを聞くだけで眠りに深く吸い込まれそうになってしまう。





ーー先生。





これからはその微笑みは夢の中でしか出会え無い。




だから最初で最後のデートは。




たくさん名前を呼んで欲しい。




たくさん笑って欲しい。







キスして欲しいなんて思ったりしたけど。





もしも、そんな事をされたらきっと心臓が止まる。





もう夢でさえ先生にキスをされる事は無くなったから。







先生はどんな表情でキスをするんだろう。




先生はどんな手つきで女性を抱くんだろう。






そんな事を考えている時点で変態だ。




夢の中の先生は白衣を着ていて。



煙草を吸いながら微笑んでいるだけなのに。






すぐに欲望に結び付く脳みそは末期癌のように手遅れ。




こんなに自分が欲望まみれで貴方を見ているなんて知ったら。




先生がそんな俺を知ったら。







軽蔑されて、終わりだ。






せめて最初で最後のデートくらいは。





先生との時間を心から楽しめる自分でいたいから。





恋心も。





欲情も。







この一日だけは封印されてくれないか。





先生と別れた後に。






あの悪趣味な男に全て吐き出すから。





全部吐き出して楽にするから。






そして、終わりにするから。






せめて、先生の前では消えていてくれないか。





何も見られたくない。




何も知られたくない。






先生には。






何も知られてはいけない。






嫌われたく無いから。





軽蔑されたく無いから。






最初で最後のデートくらい。




先生と笑い合いたいんだ。







だから、頼む。






夢を見させないでくれ。





何も願わないでくれ。







自分をコントロール出来るような大人じゃないから。




デートなんて響きにも平然としていられる程、利口じゃないから。




もう何も。





望まない。



期待しない。



揺るがない。





先生から卒業する。







ーーねえ、先生?






俺が最初に助手席に乗る事を許してくれたのは。




先生が大人だからなのかな。



先生が優しいからなのかな。





特別な先生の隣を。






この先の未来。






どんな人が指定席にするんだろう。






ーー羨ましいよ。





ーーねえ、先生。






明日はどこに行く?




明日は何をする?




どれ位一緒に居られる?






先生の隣を独り占め出来る。




最初で最後のデート。






先生がもし楽しんでくれるなら。




どんな話でも俺は心から笑うよ。




合コンの話でもいい。




女性とのセックスの話でもいい。



下ネタでも何でもいいよ。





俺はちゃんと笑うから。







先生が高杉や桂と話すみたいに。




俺が総悟や近藤さんと話すみたいに。





男同士のくだらない会話をしよう。






せめて先生が。






この先その助手席を誰かの指定席にする事があっても。





最初に座らせたのが俺でよかったと。





不意に思い出して笑ってもらえる位。






綺麗な、いい思い出にしたい。






だから、くだらない話をして。





馬鹿な会話をして。







何事も無く。







最初で最後のデートを終わりにしよう。








その為に俺が出来る事は。






先生への恋心も欲情も捨てる事。





先生と居るその時間だけでいいから。





頼むから何も感じないでくれ。








嫌われたく無い。





嫌われたく無い。







本当にそれだけだから。







ちゃんと『いい子』にするから。





何も貰えなくていいから。






これ以上、奪わないで。







何も要らないから。





何も望まないから。






ただ、奪わないで。






先生の隣に居られる最後の時間を。





先生が笑ってくれる最後の時間を。







心を。








もう、奪わないでください。







嫌われたく無いんです。








先生にだけは。







 
 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ