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□□恋人ごっこ□−January−Half@
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本当は。


追いかけようと思った。



追いかけるべきだと思った。




なのに、体が動かなかった。


立つことも出来ない両足には、重い足枷がついているかのようで。



だったら電話でもよかったんだ。


誤解を解いて、本当の気持ちを話して。



アイツを引き留めたかった。




でも俺は、アイツの携帯の番号さえ知らない。


かける事も出来ない。




でも、本当は。



やっぱり逃げたんだ。




拒絶される恐怖を味わうのが怖くて。


あんなに辛そうに笑う顔までして立ち去る程、アイツを追い詰めていたのに。




今更、誤解を解きたいだなんて意味が無い。



ただ自分が安心したいだけだ。





土方はまだ俺のモノだと。



土方が俺から離れる事は無いと。




まだ変わらない二人でいられると。



そう思いたいだけだ。




なのに、なにも出来ない。



あんなに苦しめてきたのに。


あんなに辛い思いをさせてきたのに。


あんなに好きで居てくれているのに。


あんなに求めてくれていたのに。



俺は全てを拒絶していた。



当然の、結末。



俺は逃げていた。


俺は怖がっていた。




受け入れる事も、失う事も。



そして、一番は。




きっと………。







暖房をガンガンにかけているこの部屋は、少し暑がりな奴が入ってきたら顔をしかめる位の温度になっているだろう。


だが幸いな事に、始業式を終えた学内には生徒は殆ど残っておらず、辺りは静かなものだ。


まるで自分の城であるかのように保健室のベットを一つ占領して横たわる。
白いカーテンで遮られた景色の中で、静かに呼吸を繰り返していた。




頭が煮える位の後悔。



冴えさせてはいけない思考に囚われたくなくてこんな事をしているのに。



やたらと静かな空間では結局、何も改善されない。




浮かんでは消える姿。



思い出しては打ち消す涙。



消しても消しても、染み付くように脳裏からも眼球からも離れてくれやしない。




ーー『恋人ごっこ』は。


ーー終わったのに。




アイツは俺から漸く卒業出来たのだというのに。



自分がまだ、卒業していない。


あんなに冷たくしてきた癖に、今自分は酷くショックを受けている。



始業式だけで終わる今日。



実際、どんな顔して会えばいいかなんてわからなくて迷って。



やっぱり、昨日は眠れなかった。


情けないクマを目の下にこさえての登校にいろんな生徒からからかいやツッコミを受けた。


その度に冬休みボケだと軽く流しているフリをして、神経は全て窓際の一つの席に集中していた。




土方はただ、窓の外を見つめていた。



何にも興味が無さそうな冷めた目付きで冬の校庭を見ていた。



その姿を盗み見る度に、前の席に座る近藤が自分に絡んできたが、見てるのはお前じゃねぇと言ってやりたくなった。



土方はこちらを一瞥もしない。



どんなに教室内が騒ぎだそうと。

どんなに俺が話そうと。



こちらを一瞥もしなかった。



前はそれで隠してるつもりなのかと聞きたくなる位、刺さる視線を向けていたのに。


今はまったく逆だ。


俺が何度、近藤と漫才のやり取りをしようが猿飛や神楽がじゃれて来ようが。



まったく、目が合わない。



自分もそうしていたからわかる。



あれはサイン。




『お前に興味なんて無い』のサイン。




だから、わかる。



お前は本当に、俺から卒業したんだと。



心の奥底にどんな本音が隠れているかなんてわからないけれど、あれは明確な意思表示。


強がりだろうと、無理していようと同じ事。




アイツは俺を拒絶している。



もう、関わりたく無いと。





だから俺はショックを受けているんだ。



自分がしてきた事だから、痛い位にわかってしまう。



完全に立場が逆転している。



俺が今、土方を必死に見てる。




でも違うのは。




もうどうにもならないという事。




これから何かが変わる為じゃなく。


終わった事の気持ちの整理なのだから。




傷だらけになって化膿してしまったアイツの心の傷を。



今更、こじ開けて血を流させる事は出来ない。




だからただ、見つめるだけ。



もう二度と合わないとわかっていても。




ただ、見つめるだけ。




なのにやっぱり怖いから。




俺はすぐに目を逸らす。





目が合ってしまう事も。


目を逸らされてしまう事も。


見ている事を知られてしまうのも。



何もかもが、怖い。



逃げ癖がついているからだ。




傷つくより先に面倒臭いと口にする。



そうする事で自分を守る。




だから俺は小声で漏らす。





『面倒くせぇ……。』






自分自身が。






 
 
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