・・金黒・・

□●愛シテ●3ndcontact
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アンタに拾って貰えるなら。


ペットでも家政婦でもなんでもいい。


もう一度拾ってくれないかな。



最初からやり直したいよ。



アンタの傍に居られるような男になったら。


アンタが傍に居て欲しいと思えるような男になったら。



また、拾ってくれないかな。


駄目、かな?




彼女を送って行った帰り道。


部屋に戻れない事は分かっていて、煙草も持っていない事も知ってた。


このまま、消えようか。

そんな考えも一瞬浮かんだけれど、それだけは出来なかった。


服も、パンツも。

全部がアイツのもので。

このまま消えてしまったら、きっと泥棒になってしまう。



ーーなんて。



本当は傍から離れたくないだけ。


自分を動かす動機は、そんな簡単な事。

簡単過ぎて、馬鹿みたいだ。



ーーやっぱり、か。



いい加減、認めよう。



俺は土方が、好きだ。



この感情を自分で認めたという事は。


もう、選択肢は一つしかない。





「もしかして、付き合ってるとか…?」



僅かに震える唇で。

でも表面上はおどけた雰囲気で彼女にそう問い掛けてみた。


どっちの答えを期待したかなんて言わなくても分かる。


だが、彼女の口から出た言葉はそのどちらでも無くて。



「……私、今度結婚するんです」



その言葉を人から言われた場合、通常『おめでとう』と返すものなのだろうが、自分はそれが出来なかった。


彼女の表情が、無理をしているような寂しげな笑顔だったからだ。



「ずっと、私の片想い。あの人には全然相手にしてもらえなかったのに、いつまでも未練がましいわよね」



そう話す彼女は何をしに此処に来たかを隠すつもりもなく、それでいて明確な想いがあった。


まだ、忘れられないと。


土方を好きなんだと。



彼女はきっと。

最後の賭をしに、此処に来たのだ。



綺麗な人だ。


外見だけじゃなく、自分の弱さも狡さも知っていてそれを全てさらけ出せる。

なのにちっとも淀んでいなくて、真っ直ぐな眼差しをしている。


いい、女だ。



「こんないい女をモノにしないなんて、アイツも馬鹿だね」



きっと、片想いなんて嘘だ。


分かるけど、分からない。



「……優しいのね、坂田さん」



彼女は楽しげに笑っている。


此処で彼女と俺との関係を結びつけるなら、『恋敵』になるのだろうか。


片や、文句の付けようの無い綺麗な女性が全てを捨てる覚悟で最後の賭をしに来ている。


一方、その男の『面倒見の良さ』『優しさ』に漬け込んで、好きだから甘えていたいと願う男。



ーー恋敵、だなんて。




「……俺が協力してやろうか?」



おこがましいにも程がある。


迷惑ばかりかけてきたペットが出来る恩返しは、ご主人様を幸せにする事。



「俺が二人の仲、取り持ってやるよ」



二人の恋のキューピッドになれたら。


上手く行けば二人の結婚式に呼んで貰えるかも、なんて。



そんな陳腐な未来の繋がりを夢見るなんて、情けない。



心臓は千切れるような傷みを訴えて泣いているのに。



作り物の笑顔だけは剥がれないでいられた。



やっぱり、ホストには向いているのかもしれないな。





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