・・短編弐・・

□◆モノ◆
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昨日。


女を抱いた。



アイツと関係を持つようになってから、初めての事だった。


いつもは主導権を握られて好き勝手アイツに弄ばれるセックス。

だが、相手が女となれば自分がその手綱を操れて楽といえば楽だった。



それよりも。


女を抱けた事に、安堵した自分がいた。


そんな当たり前の事を確認したくて女を抱くなんて、馬鹿だと思う。

でも何処か何故か不安で、たまらなくなる時があったから。



もうこのままじゃ、俺は。


アイツとしか抱き合えなくなるんじゃないか。



そんな不安が支配する時間が増えれば増える程、怖くなっていた。


アイツと体を繋げる度に。

飽きるどころか欲望だけが増していって、時々狂うような感覚に陥る時もある。


こんな事ばかり繰り返していたら、もう引き返せなくなるんじゃないか。

戻りたい所なんて何処かも分からないくせに、もう戻れないんじゃないかと怖くなる。



怖いんだ、俺は。


このままアイツのモノになってしまいそうで。



変なんだろうと思う。


アイツは別に俺の何もかもが欲しいなんて思ってはいないだろうに。


体を開け渡す度に、自分の奥深くまで抉じ開けられているようで。



酷く、怖れた。



このまま自我さえ無くなって、アイツの思うままの人形になってしまうんじゃないかと感じて。


だからといって、だったら自分が抱く側になりたいとかそんな簡単な願望じゃない。



だって、昨日女を抱きながら。

後ろからアイツに襲われているような錯覚さえ過った。



実はそれで果てたなんてアホらしくて認めたくは無い。


何から逃げたくて何が怖いのか。


本当は、わかってる。



アイツを俺だけのモノにしてしまいたい。


そんな欲望がどうしても消えてくれない。



アイツが俺だけのモノになるのなら、こんな馬鹿な事実確認や不安に駆られる事も無いのに。


それは無謀な野望だとも分かりきっているんだ。



だってアイツはモノじゃない。


ましてや、俺だけのモノになんてなるわけが無い。



だから、女を抱いた。


自分で自分を奮い立たせる為に。



そして、こんな感情をもて余しながら。



アイツに抱かれる為に逢う。



あの指やあの唇がどうやって自分を侵していくのかを監察しながら。


そして、きっと溺れない為に。



これからも俺は、女を抱く。



罪悪感なんか感じるわけは無い。


これは、予防策だ。



アイツが自分以外の人間を抱いた事実を知った時に。


傷付かない為の予防策。



きっとアイツは何にも縛られたりしない流れ者だから。


こんなに執着していると気付かれたら終わってしまう。



アイツを、自分だけのモノにしたいと思い過ぎないように制御しなくては。



例えば、100回愛していると言ったとして。


例えば100回抱き締めたとして。



それでもアイツは俺のモノにはならないから。



いつでも離れられる準備をしなければならない。


これ以上、依存したら。


もう、戻れなくなる。



でも、何処に戻ればいいんだ?



それでも俺は。



アイツと抱き合いたいと思うのに。





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