・・短編弐・・

□◆2・14→3・14◆
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万事屋に戻った銀時はソファに腕組みをして、テーブルに置いた例のブツを睨んでいた。


この異常な空気を察してか新八も神楽も部屋には居らず、静まり返る空間に妙に落ち着かない空気が漂っている。



――落ち着け、俺。



自分に言い聞かせて深呼吸をしてから、またあのチョコレートを見つめる。

だが、頭の中に浮かぶあの姿を思い出す度にやはり変な焦りが募ってくる。



――だって、おかしいだろ。



コレを自分に渡したのは男だ。

男は男でも、例えばアゴ美とか九兵衛とか性別表記や精神的に一般では無い奴から貰ったものなら好みはしないがなんとなく素直に捉えられる。


だが、相手はあの土方だ。


あの泣く子も黙る真選組の鬼副長。

土方十四郎だ。


自分と顔を付き合わせば意地の張り合いだの口喧嘩だのしかしない、ヤニマヨ中毒の瞳孔開っぱなしの、あの土方だ。


あの鬼副長が?


あの副長さんが?


あの副長様が、俺に?


いやいや、副長様ってなんだ。

尊敬してるわけでも崇拝してるわけでも無ぇのになんで様づけなんだ自分、落ち着け。

だってあんなのがこんなバレンタインデーにこんな可愛いラッピングされたチョコレートを俺に渡すとか有り得ないじゃん?

嫌がらせか嫌がらせか、はたまた嫌がらせにしか思え無ぇし。


『偏屈野郎が』


どう生きてきたらこの状況を素直に受け入れられる脳ミソが出来るのか逆に聞きてぇっつーの。

まぁ、素直に受け止めりゃアイツが俺を好きだって事なんだろうけどよ。


アイツが……。


俺を………。


す…………………?



「いやいやいやいや!!無ぇーからマジで!!!」



独りぼっちの部屋で銀時は大声で叫ぶ。

何故か冷や汗が額から頬にかけて流れ落ち、この季節熱いわけでもないのに体中が汗ばんでいた。


アイツが俺を好きとか、それは流石にどう考えたってどう調子良く捉えたって……って、調子良く捉えるとか意味わかんねぇからシカトするけど、まぁとにかく。


素直に受け止めるなら。


あの土方が、俺を好きだからって答えなんだろうけど。



――マジでか。



あの男が俺を?なんで?

まぁモテモテなのは知ってたけどそりゃもう知ってるけど、まさかあんな堅物野郎をまでも虜にする程のフェロモンが出てたとは思いもよらなかった。

もしやアイツずっと俺の事そんな色目で見てたのか?サウナん時とかまさか舐め回すような目で俺の肉体美見てたとか?

つーか俺の事、ヤリたいとかヤラレたいとか思ってんのか?いやいや、何がどう転んでも俺がヤラレんのは勘弁だからヤルならアイツがヤラレる方だからそれは断固として譲らないけどね。

何気にアイツはドMそうだから無理矢理とか好きなんだろうけど、やっぱ最初はちゃんとノーマルに行くのが無難だろ。体の具合とか声とか表情とか、ゆっくり楽しまないと損だし。

でもアイツとキスしたら煙草の味しそうだよな。苦いから嫌なんだよね、俺。でもそれがクセになっちまったらヤベー気がする。

つーかやっぱりあのカッチリした清純ぶった制服剥ぎ取って行くのが一番興奮するよな。なんかイケナイコトしてるみたいで、でもお前が誘ったんだろ?みたいな事言って辱しめてやるとかかなりクルよな。


あの土方の端正なツラ。


快感で歪ませるとか、マジでヤバイだろ。



――……………。



ん?



「………なんでヤリたいみたいな話になってんだ、俺」



北海道に行こうとしたらハワイに着いてしまった位の思考の逸れ方に、自分自身が追い付いていけなくなってしまった。


つーか、導きたい答えはそんなディープな話よりずっともっと前の話で。



アイツは、本当に。


俺が好き、なのか?



何故か心臓がドクドクと波打ち初めて、顔が熱くなっていく。


さっきとなんら変わっていないラッピングされたチョコレートを、銀時は凝視したまま動けなかった。




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