・・短編弐・・
□共犯者
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「シテみるか?」
一人脳内戦に励んでいた土方とは対照的に顔色一つ変えない高杉が、さらりと恐ろしい提案を口にしてきた。
またもや表情が歪んでしまうのは自分。
だから、必死に冷静さを装う。
「なんでお前と俺でンなもんしなきゃなんねぇんだよ」
煙を吐き出す為に唇から煙草を離すと、首に置かれていた高杉の手に力が篭った。
指に挟んだ煙草の灰が灰皿に落ちるより早くアスファルトに零れたのは、きっと自分が生み出した振動以外の負荷がかかったからだろう。
何も言わず、キスされた。
重なっている唇と唇の感覚が意外と軽くて柔らかいから違和感が無い。
ただ一つだけおかしな部分を上げるなら、自分にキスをしている高杉の表情に喜びを感じている自分自身だろう。
目が閉じられているというだけで、なんだか特別な気分。
思いの他、長い睫と艶のある長めの前髪が頬に触れてくすぐったい。
なんて。
動揺も拒否反応も無く受け入れてしまった自分は大丈夫なのだろうか?
動揺を見せたら負け、とか頭の中で戦ってはいたけれど、この状況を拒否しないのはマズイ気がする。
なのに、自分まで目を閉じて受け入れてしまっているのは何故だろう。
「案外流され易いな」
ゆっくりと唇を離した高杉は、お互いの鼻先が触れる位の距離で楽しそうに笑いながらそう言った。
土方の指に挟まれている煙草を土方の手ごと引き寄せて自分の口に運ぶ。
指で感じた高杉の唇も柔らかかったから、一瞬心臓がドクリと跳ねる。
「別にテメェに流されたんじゃねぇ」
目線を離さずに、そう強がってみせる。
まだ勝ち負けにこだわるのは何なのか。
自分だけだったら尚更、癪だ。
「優等生ツラして裏では喫煙。清純そうなツラして実は何でも有り、か」
ククッと喉を鳴らして笑う高杉から与えられた二度目のキスも軽く触れるだけのもの。
一度目よりも煙草の味がした位しか違わない。
恐ろしい事に。
物足りなく感じる、自分。
♪♪♪♪〜
普段とは違う不思議な空気になっていた二人だけの空間に鳴り響く機械音。
この異次元空間を現実に引き戻したのは土方のポケットに仕舞われている携帯電話だった。
土方が携帯電話を取り出す仕草をしたと同時に、高杉は土方から体を離して煙草を口に運んだ。
着信は近藤。
「もしも……、あぁ今行くって。悪ィ、野暮用でさ……あぁ、じゃあな」
話をするより早く来いと言わんばかりの近藤の催促に、早々に電話を切った土方は何となく気まずい気分で高杉をチラリと見る。
なんでだか分からない流れでキスをしてしまい、何だかわからないうちに終わってしまい。
高杉はいつもの顔で。
いつものように煙草を吸ってる。
だから分からない。
何でなのかも、何故かも。
だったらこのまま鵜呑みにしてごまかしてしまった方が楽だ。
♪♪♪♪♪〜
このまま無言で立ち去るのはなんだか気まずい気分だった所に、またもや携帯電話の着信音。
今度は、高杉の携帯だ。
「……なんだ。あぁ、わかった。今から向かう」
素っ気ない返事を繰り返す高杉の声。
話の相手はきっと。
「河上か?」
煙草を灰皿に投げ捨てて、立ち上がりながら問い掛ける。
高杉の口元が笑っているのが見えた。
「そっちは近藤だろ?」
お互いにお互いのいつも、がわかってしまう。
そんな自分達に今日訪れたいつもとは違う瞬間。
なのに、違和感が無いなんておかしい。
嫌、そもそも友人でも無いのにこの場に一緒に居る事に不自然さが無いのはなんなのだろう。
秘密を共有する仲間?
高杉、と?
解決しそうに無い疑問を巡らせながら、ゆっくりと歩きだす。
一緒にこの場を後にするなんて事はしないし、ましてや別れの挨拶なんて自分達には無い。
ただこの場所に。
こいつがいる事は自然なだけで。
隣に居て欲しいとか、もっと一緒に居たいとかは無い。
だから何なのだろう、この感覚。
「またな」
珍しく別れ際にそんな言葉をかけてしまった。
それも、何故。
「またって、どっちだ?」
別れ際の挨拶をした自分に聞き返して来た高杉を振り返る。
また新しい煙草をくわえて平気な顔でポケットから新しいライターを取り出し、火をつけている高杉の姿を見て、また顔が歪む自分はやっぱり負けたのか。
騙されたとか、嵌められたとか。
それに気付かず、流されたのは自分なのだから。
「煙草吸いに来んのか、キスしに来んのか、ん?」
答えを出すのをこちらに委ねようとしている高杉は、実は自分なんかより臆病なんだと思う。
そう、思う事で。
勝ち負けの勝敗もうやむやにしよう。
「どっちも気が向いたら、だな」
なんて、さも余裕ありげに振る舞えば、この男と対等で居られる気がする。
被害者にも加害者にもなりたくない。
この男とは罪も秘密も。
全部。
共犯者でありたい。
終
拍手&御礼文にお付き合いありがとうございました!
いただいた七万打企画からの高土同級生パロ&煙草仲間のリクより