・・短編弐・・

□◆伝えたい事◆
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「……愛してる!」



乾燥しきった掠れた声で、それでも必死に絞り出した言葉はそれだった。


情けなくもベットから身体半分はみ出した状態で、咄嗟に伸ばした手で土方の腕を掴んでいた。


漸く言葉を発する事が出来たのに、双眼はまた瞬きを出来ないでいた。

こんな状態が続いたら、眼球を守る為の水分が溢れてきそうだ。



自分の言葉を聞いて、自分の手に止められても。


土方は振り返らない。



「愛してるんだ!」



だからもう一度、引き留める為の言葉を叫ぶ。


自分が吐き出すまで、自分でもこんな事を口にするとは思ってもいなかった。


でも、今何もせずに失ってしまうのなら。


本当の気持ちを伝えなければならない。



あぁ、コレが。


俺の本音、か。



「なんで終わり、なんだよ……愛してる、愛してるんだ、愛してるんだよ!テメェが好きで好きで仕方ねぇんだ!」



掴んだ腕を強く握り締める。


言葉と温度がちゃんと伝わって欲しいから。



「……似合わねぇでたらめを言うな。テメェの今までの態度のどこにそんな素振りがあった?」



振り返らない背中越しに、低い声が降ってくる。


さっきまでは同じ温度を感じていた土方の身体が、今は酷く冷たく感じる。



「ずっと、隠してた……だけだ。俺が求めるモンとお前が欲しいモンは同じとは限らねぇだろ?だから俺がそんな事言ったらお前がもう、こう……しないとか言われる気がして」



言い訳だ。


自分で口にしながら、そう思う。


何かに確証を持ってしまえば、そこには責任やら覚悟が必要になって。

実際、それを自分が抱えて正面から戦える度胸も自信も無かった。

曖昧で居てくれるなら、このままでいいんじゃないかと自分が楽をしたかっただけで、本当はただ現実を直視したくない逃げ根性でここまでズルズルとやってきた。


土方はそんな関係に。


嫌気がさした、という事だ。



土方がゆっくりとこちらに振り返る。

いつもはベットの上で見下ろしているその『土方』では無く。

今は見上げるその表情に、いつもの『土方』は見付からなかった。



「……もう、遅ェ。なにもかも」



苦々しいその顔には、僅かな悲しみも浮かんでいる。


なのに、そこにはもう余地など無い確証があった。



「失ってから大事なモンに気付いたってもう遅い……たぁ、よく言ったもんだよな」



そうだ。


こんな風に土方が決断をする前に、俺には出来る事が沢山あったはずだ。

偶然を装うでも、気紛れを装うでも無く。


お前に、会いたかったんだと。


伝えらる瞬間は無数にあったはずなのに。



俺は。


大事なものを失う怖さをあれだけ学習したはずなのに。



また、失うってのか……?






「……っ、土方!!」



銀時は目を見開いてその名前を叫んだ。



「………ぉあ!!」



すると耳元から人の叫び声がした。

驚いて振り向くと、自分の真横に横になっている土方の顔がある。



――…………あれ?



土方を凝視する。

目の前に居る土方は安いラブホテルの陳腐なベットに並んで横たわり、肘で頭を支えながら煙草を吸っている。


さっきまで、着流しを着て自分に引導を突き付けていたはずなのに。



「なんだテメェいきなり叫びやがって……頭大丈夫か?あ、大丈夫じゃねぇな。もう死んだ色して爆発してら」



だが、現実今目の前に居る土方はまだ裸で布団に潜っているし、いつもの憎まれ口をたたいている。


いつもの、土方だ。



「……俺、寝てた?」



少し震える声で問い掛ける。


煙草の煙を吐き出して、土方は皮肉った笑みを浮かべた。



「あぁ、終わった瞬間バッタリとな。死んだみたいに寝やがって、テメェのせいで延長料金かかっちまったじゃねぇか」



吸いかけの煙草を灰皿に押し付ける土方を目で追って、銀時は瞬きを繰り返した。

そして、勢いよく心臓が鼓動し始めて身体中が熱くなる。



「土方ァァァ!!!」

「うぁ!い、いきなりなんなんだテメェは!!」



銀時は土方に抱き着くと、身体ごと覆い被さってベットに沈ませる。

状況にまったく着いて行けてない土方は何度も瞬きを繰り返した。


銀時は少しだけ身体を離して土方を見つめる。


その顔はいつもの角度から見る、いつもの土方のものだった。



――失う前に。


――気付けてよかった。



優しく微笑みながら銀時は土方の前髪を撫でた。


この結果がどうであれ、夢の中で見た結果よりは遥かにマシになるはずだ。


きっと、夢の中の土方は。


それを教えてくれた。





「……お前に伝えたい事があるんだ」







END




20120319



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