・・短編弐・・

□◆三つ巴◆
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「おーい、山崎居るかィ」



そんな土方の部屋にひょっこりと顔を出したのは沖田。

山崎を探しているらしい。



「はい、居ますけど」


「やっぱり此処か。近藤さんから頼まれてた運転手の件、人選決まったんかィ?」


「あー……それがまだなんです。俺はその日張り込みだし、なんだか柄の悪い奴は駄目だとか注文多くて中々適任が居ないんですよ」


「ハタ皇子だかバカ皇子だか知らねぇが呑気なもんでィ。なんでテメェの送迎に俺らが使われなきゃならねェんだ」



土方の部屋を訪れた沖田はまるで自分の部屋かのように、のんびりと寝転がり山崎と会話を始める。

山崎も沖田に振られた事で思い出した難航している案件の人選を考え、難しい顔をしていた。


この間、部屋の主である土方の事は二人共完全無視である。


土方は眉間に皺を寄せて煙草の煙を吐き出した。



「おぃ、テメェら俺に用が無ぇんならさっさと出て行きやがれ。俺は忙し……」


「あ!なら、万事屋の旦那に頼むってのはどうです?」



文句を言おうとした土方の言葉に被さるように山崎が声を出す。

そこにまたもや登場した人物の名前に、土方の体は固まった。


山崎の提案に沖田もあぁ、と納得したような声をあげる。



「いいんじゃねぇか?旦那ならいざって時に盾になって死んだとしてもウチは困ら無ぇしなァ」


「そんな物騒な言い方せんでください。俺はただ旦那なら上手くやってくれそうだし頼み易いなって」



二人は淡々と話を進めている。

普通なら激しくツッコミたい所だが、なんとなくそれは躊躇われた。

だが、それが逆にドツボに嵌まるというのか。



「だそうで、土方さん。旦那に言っといてくだせェ」


「お願いします副長」



土方の嫌な予感そのままに、二人はそんな事を言い出した。



「だッ、から!なんで俺に振るんだ!テメェらが頼めばいいだろうが!」



堪らずに土方は声を荒げる。

拍子に叩き付けた拳のせいで書類の束が空を舞った。



「どうせ旦那と会うんでしょ?断られたら面倒だ、アンタから頼んどいてくだせェ」


「あーあー、書類がぐちゃぐちゃだ。何やってんですか副長、これじゃ折角の連休の為に頑張ってたのに時間ロスしちゃうじゃないですか」


「え、土方さんついに旦那と婚前旅行でも行くんですかィ?うわぁ気色悪ッ」


「沖田さんあんまりツッコむと副長拗ねちゃいますよ」



二人の怒濤の応酬に土方は口をパクパクと動かすだけだった。


何故知っている、などと聞くのは肯定するのと同じだから口にする事は出来ず。

かといって今更あんな奴とは何の関係も無いとシラをきった所で信憑性も無く。


頭の中がパニックというか。



「黙れェェ!テメェらどっか行けェェ!」



結局、ほぼ肯定した上でその場しのぎの叫び声を上げるしか無かった。



「なぁに動揺してんだ土方気持ち悪ィ。そのツラ猥褻物陳列罪でしょっぴいてやりやしょうかィ?」


「動揺なんかしてねェ!テメェらが適当な事ベラベラぬかしてっから腹立つんだよ!」


「……何、山崎君。もしやこの阿呆はバレて無いとでも思ってやがんのかィ?」


「そうみたいですよ沖田さん。副長、恥ずかしいんじゃないですか?普段あんなに嫌ってるみたいな素振りしてるから」


「なんでィ、ふらりと夜中に帰ってきてはキスマークなんぞ着けてくる色ボケ野郎のくせに隠せてるなんて思う方がおかしいだろィ」


「でも本人は否定してるんですから取り敢えずそういう事にしておいてあげましょ。副長の機嫌損ねて旦那にとばっちり行ったら旦那から八つ当たりされんのこっちなんで」


「何処まで面倒臭ェ野郎なんでィ。いっそ寿退社して消えてくれよひじかたァ」



口をひん曲げて馬鹿にしたように沖田が告げた瞬間。


土方の額の血管がプチリと音を発てた。




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