・・短編弐・・

□◆三つ巴◆
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「テメェら殺すッッ!!絶対ブチころーす!!!」



土方は怒りと恥を合わせた相乗効果で真っ赤な顔になり、刀を抜刀して二人に斬りかかる。



「うわぁぁ!ふ、副長!落ち着いてェェ!」


「もう許さねェ!テメェらだけは絶対許さねェェ!」


「あーあー、動揺しちゃって御乱心ですかィ」


「まずはテメェからだ山崎ィ!総悟はなぶり殺しにしてやっからな!!」


「ひィィ!!なんで俺から!?俺は庇ってたじゃないですか!!」


「五月蝿ェ!その『俺は理解者です』面が腹立つんだよ!」


「安心しろィ山崎。介錯は俺がしてやらァ」


「なんでアンタ加勢してんのォ!?全然安心出来無ぇよ!!」



ほぼ絶望的になった生に顔を青くしている山崎を取り囲む土方と沖田。

山崎は畳を這うように後退りした。



「なんだ随分騒がしいな、どうした」



そこに救世主の声が。



「お、総悟に山崎も。皆集まって何はしゃいでんだ?」


「局長ーー!!!」



廊下から現れた近藤にすがりつくように山崎は近藤の足元まで一目散に這いずった。

何故か同じように沖田も。



「近藤さん助けてくだせェ、真選組副長ともあろう土方さんが可愛い部下に権力振りかざして横暴なんでさァ」


「誰が可愛い部下だ!!だったらリボンでもつけて見た目だけでも可愛くしてみやがれ!」


「……どーせいつも旦那とそういうプレイしてんだろィ」


「誰がするかァァ!!」



近藤の脚に縋りつく沖田に向かって刀を振り上げる土方。

そんなやり取りを見て近藤は困ったように笑った。



「まぁまぁ、トシ落ち着け。総悟も悪気は無ぇんだよ」


「悪気の塊だろーが!むしろ悪気しか無ぇよこんな奴!」



宥めようとする近藤の言葉でも怒りが治まらない土方は沖田を睨み付ける。

近藤はそんな土方にやれやれと溜め息をついた。



「根詰めすぎて疲れてんだろトシ。少し気晴らしでもしてきたらどうだ?」



優しく笑いながら言う近藤に土方はゆっくりと刀を降ろす。

近藤に気を使わせている事が申し訳無くなって、口惜しいながらも鞘に収めた。



「……そうだな。煙草でも買ってくるわ」


「そうしろ、外の空気吸うだけでも気分が変わるぞ」


「あぁ」



近藤と会話をしているだけで不思議と怒りが和らいでくる。

土方は煙草を口にくわえると、沖田と山崎の存在など無視して廊下へと歩み出た。



「あ、そうだトシ」



部屋を出た土方を呼び止める近藤の声に土方は振り向いた。

近藤は嬉しそうな顔で土方を見ている。



「例の皇子の運転手、万事屋に依頼するのはどうかと思ってるんだが、どうかな?」



近藤の口からもアイツの名前。

ただ、近藤だけは裏は無いと分かっているから安心出来る。

例え足元の二人がニヤリと笑っていたとしても。



「……まぁいいんじゃねぇか。人選はアンタに任せるよ」


「そうか。じゃあすまんがトシ、ついでに万事屋に依頼してきてくれるか」


「……あぁ、まぁ……構わねぇが」


「宜しく頼む、万事屋もトシからの依頼なら断らないだろうしな」



なんだろう。


こんなやり取り、さっきもしていた気がする。

近藤の足元で笑いを堪えているあの馬鹿二人と。



「お前ら仲良しだもんな!今度の連休も一緒に出掛けるんだろ?ちゃんとトシが休めるように俺も協力するからな」



同じような事を、言われた気がする。


こちらを指差して笑っているあの馬鹿二人に。



「……お、う」



土方は引き攣った表情のままよろめきながら背を向けて歩いて行く。


悪意の無い言葉の方がより堪えるのは何故なのだろう。



「知らぬは己ばかり……」



沖田と山崎は含み笑いをしながらボソリと呟いた。






END




20120405


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