・・短編弐・・

□◆消えない◆
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知ってるんだ。


目に見えるそればかりじゃない事を。



「クソー、なんで俺がこんな目に……!」



悪態をつきながら、腰に手を回して支えてくれる腕を知っている。


コイツにとってどうでもいい自分なのだから、とっとと捨て置けばいいのに。


結局、見棄てられないのを知っている。



言葉が汚くたって、顔が歪んでいたって。


支えてくる腕の力は強くて、気遣うように進める歩幅は優しくて。


本当は、こんな俺でも心配してくれる気持ちがある事を知っている。



――なぁ、万事屋。


――お前に惚れてんだ、俺は。



有り得ないだろ?


気色悪いだろ?


なのに、これが本当の話なんだ。



――なぁ、どうしたらいい?



考えても考えても、どうにもならねぇんだ。


気持ちを打ち消す事も、忘れる事も出来なくて。


抱え込んだ感情は限界を迎えてて、呑んだ酒は吐き出せてもこの想いの行き場が分からねぇんだ。



いっそお前が、消えてくれたら。


俺は楽になれるのに。



「っとに、何なんだよコイツ……!オイ、携帯とかなんか持ってんだろ!?ゴリラ呼び出せ無ぇのか!」



自力でなんか歩けていない男を支えて歩くのは、さぞかし重く煩わしい事だろう。

辛そうでいて苛立ちを含んだ声をあげる銀時の言葉に、土方の唇は漸く動いた。



「……消えろ」


「あ?」



口の中が胃酸の臭いと酒の味で気持ちが悪い。

異臭を放っていてもおかしくない状況だった自分を思い返して、土方は笑った。



「……目障りなんだよ、テメェなん、か……消え失せろ」



消えたいのは自分の方だ。


誰にも見せたくない醜態をよりにもよって、何故コイツに見られなければならないのか。


惚れてる相手に。


惚れてる相手、か。


しかし、気色悪い単語だな。



「んっとに腹立つ野郎だな!こっちは無理矢理やらされてんだぞコラァ!」



怒鳴り声と共に、こっちの顔に唾が飛ぶ。


それにさえ少し顔が緩むのだからもう末期だ。



「だから、捨てろ……もう、ほっとけ」



こんな自分を見られたくない。


こんな自分を知られたくない。


消えてくれ。


もう、本当に消えてくれ。



「あぁそうかよ!その辺の浪士に斬り殺されたって俺ァ知らねぇからな!」



もう、うんざりだとばかりに支えていた自分の身体から腕を外す銀時。


漸く解放されると安堵したのはコイツも自分もだろう。



なのに。



「……うぉッ!」



支えを失った身体が崩れるのと同時に、銀時の腕を掴んでいた。

自分の身体が地面に沈む道連れのように、その身体も引きずりおろす。


二人で道ばたで転んでいるような格好。

離した腕を掴まれた銀時はさぞ迷惑だったろうに。


やはり、自分の背中に手を回しその手は無意識に守ってくれていた。



もう、嫌だ。


勘弁してくれ。



「……ッつー!マジで面倒臭ェ!お前、いい加減にしろ!」



怒鳴る銀時が自分の胸ぐらを掴んで睨み付けてきた。


だから俺も睨み返してやろうと顔を上げて、口がゆっくりと動く。



「頼むから、行かないでくれ……」



自分の口が勝手に紡いだ言葉に、唖然としたのは目の前の男もそうだが自分だって同じだ。


何を、言ってるんだ俺は。





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