・・短編・・
□◆クローン◆
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「今日は風も無いんで書類飛んだりしないですから安心してください。」
その言葉に、土方はピクリと反応して山崎に視線を送る。
山崎は困ったような微笑みを浮かべて、ゆっくりと土方の方に歩いて来る。
「副長に倒れられたりしたら組が成り立たないんで、もう少し自分の体心配してくれると有り難いです。」
山崎は諭すように優しくいいながら、ズボンのポケットに常備している袋を取り出して土方の机の灰皿を片付けた。
山崎の自然な動きを、土方は憮然とした表情で見つめる。
「まぁ副長がするわけないんで、副長の健康管理をしてくれる女性でも側に居てくれれば一番なんですけどね。」
話ながら山崎は土方の煙草を掴む。
残り本数が少ない事を確認すると、困ったようにため息を吐いた。
土方は山崎を見つめる。
自然に身についたのだろう。
いつも何かにつけて用足しさせたり、仕事をさせていたから。
こいつは、俺の事をわかってる。
障子を開けて気になる内容も。
灰皿を片付けたい事も。
煙草の本数が少ない事も。
何も言わなくてもわかってる。
自分を見つめている土方の視線に気づき、山崎は不思議そうな顔をした。
「副長?何ぼけっとしてんですか。仕事してくださいよ。」
山崎の言葉を聞いて、土方はハッと我に返った。
今この時間。
右手も左手も足も、何も働いていなかった。
動いていたのは目だけ。
山崎を見つめていた目だけだ。
土方は何故か顔が真っ赤になった。
−−何やってんだ俺は…!
自分の口に出さない苛々を。
自分がしたいと思った事を。
何も言わないで自然に片付けていく姿を見て。
−−俺の側にずって居てくれたらいいな。
そんな事を考えた自分の脳みそに。
まさに頭から湯気が出る位恥ずかしくなった。
「五月蝿ェ!山崎のくせに偉そうな事言うんじゃねぇ!山崎ごときがっ!!」
土方は机をガンと叩いて怒鳴る。
その拍子に、机の書類が倒れて畳の上に順不同でバサバサと雪崩落ちた。
「あぁっ!!」
土方の怒鳴り声よりも、書類の散乱に山崎は叫び声をあげた。