・・短編・・
□◆=の図式◆
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今手に持つ物。
それはただの煙草だ。
渡した人物からしたらこれは『煙草屋の前で拾った財布の持ち主からのお礼』だ。
−−俺は吸わねぇっつーの。
顔なじみの煙草屋のババアと話していただけで喫煙者だと勘違いされた。
そしてお礼と言われて渡された煙草。
受け取った瞬間に浮かぶのは一人の顔。
煙草=アイツ。
その図式が頭の中に組み込まれてしまっている自分が酷く馬鹿らしい。
そして、悪くないと思う。
「銀さん、煙草なんか持ってどうしたんですか?」
煙草を見つめたまま、ぼんやりと歩く銀時の横顔を見ていた新八が不思議そうに声をかける。
「あ?いや、こんなん貰っても嬉しくねぇなって思ってな。同じお礼ならパフェでも奢れっつーんだよなぁ?」
銀時はごまかしながらポケットに煙草を突っ込む。
新八は銀時が微かに慌てている事には気付かずに、何か思いついたような顔をした。
「だったら土方さんにあげたらどうですか?無駄にするのも勿体ないし。」
土方の名前が新八の口から出た瞬間に、銀時の胸がドキッとなった。
天然でその名前を軽く出さないで欲しい。
「あぁ!?なんで俺が貰った物をあのニコ中にやらにゃならんのだ。タダでやる位なら俺が吸うぜ。」
銀時のしかめっ面を見て、新八はクスリと笑う。
−−本当は銀さんも考えたくせに。
よくは知らないが、最近土方と銀時が話している場面をよく目撃する。
だいたい喧嘩ばかりしているが、何かにつけて一緒に居るのを見ると、多分お互い嫌いじゃないんだろう。
「嫌々吸われるより喜んでもらえる方がいいのに。いつも仲良くしてくれてるお礼をあげてもいいんじゃないですか?」
新八の言葉に、銀時の顔が薄っすらと赤くなる。
そして新八を睨みつけた。
「誰が仲良し!?やめろっつーの!あぁー止め!この話止め!!」
新八に叫ぶと、銀時は肩を怒らせてズンズンと先を歩いて行く。
新八はポカンと立ち尽くしていたが、不意にプッと噴き出して笑った。
−−何、必死になってんだろ銀さん。
必死に反論すればする程に明確だ。
多分銀時も煙草を受け取った瞬間に、土方を思い浮かべたのだろう。
だから、不満を言わなかった。
−−素直じゃないなぁ。
新八は困ったように笑いながら遠くなって行く銀時の背中を追い掛けた。