・・短編・・
□◆死に場所◆
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「今回もまた怪しい内容ですね。隊内に間者が潜んでるとお思いですか?」
山崎は機嫌の悪そうな土方の顔を覗き込み、薄く笑いながら聞いた。
土方は山崎を睨みつける。
「こう何度もガザ入れが空振りに終わるのは解せねぇ。隊内で情報漏らしている奴が居ると考えるのが妥当だろう。」
副長は人並み外れたカンの良さを持っている。
だからこそ今までの功績と、大事を未然に防ぐ手立てを持っている。
それを裏で支えるのが俺の役目だ。
その為に死ねるのならば、惜しくは無い。
でも……。
「かなり危険ですねぇ……。俺今度こそ死ぬかも。」
俺が死んだら貴方は悲しんでくれますか?
山崎の言葉に、土方は怪しくニヤリと笑った。
「テメェが死んだら俺も終わりだな。」
土方の笑顔に山崎の表情は固まる。
そんな事微塵も思っていないだろうに。
そんな言葉を吐きながら。
自信に溢れた顔で笑う貴方。
−−こんなんで死ぬ奴じゃないだろう?
そう、自分にプレッシャーをかけてくる。
それを期待だと感じるのは、自分の欲眼なのだろう。
でも、それが全て。
自分の全てをそれにかける。
「じゃあ一緒に死にますか?」
同じようにニヤリと笑う。
貴方は知らないだろうけど。
少なくとも俺は本気だ。
山崎の言葉に、土方は一瞬フッと笑い、鋭い眼差しで真っ直ぐに山崎を見た。
「俺の死に場所は俺が決める。お前も俺の命令以外で死ぬ事は許さねぇ。」
全く優しさのかけらも無い言葉。
労いも、思いやりも何も無い。
酷い命令の言葉。
なのに、それが自分の体を奮わせる。
だから、俺は死ねない。
「滞り無く遂行して参ります。死にたく無いんでね。」
そう。
貴方が決める場所以外では。
俺は絶対に死ねない。
「しくじるなよ。」
そう言う精一杯の心配の言葉だけで。
俺は充分だから。
「承知。」
山崎は微笑んだ後、しっかりと土方の眼を見つめて答えた。
貴方が決める死に場所。
そこに必ずついて行く。
貴方の傍で死にたいから。
貴方の目指す全てに答えて行く。
そしていつかその日が訪れたら。
「俺と死んでくれ。」
戦場でも地獄でもいいから。
戦いに向かう貴方の鋭い眼差しでそう言って欲しい。
貴方が決める俺の死に場所は。
貴方と共に在りたいから。
それが何処だろうと。
なんだろうと。
「承知。」
俺はそう答えるから。
俺の死に場所は。
貴方の言葉で決まる。
END
2010.03.25