・・3Z・・
□□恋人ごっこ□−October−
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先生に触れられている肩が熱い。
先生の髪が触れている頬が熱い。
先生の吐息が触れる首筋が熱い。
心臓が割れるように高鳴る。
体中に怠重いような熱がもたげる。
この衝動は、何というのだろうか。
−−先生……。
−−俺……。
−−先生にもっと触れて欲しい……。
抑えられない、生理現象。
越えられない、障害。
−−『恋人ごっこ』では。
−−叶えられない。
残酷な、現実。
『恋人ごっこ』では乗り越えられない障害が。
こんなにあっさり訪れるなんて。
−−俺は………。
−−先生に……。
−−欲情している。
授業中だろうが、休み時間だろうが関係無く騒がしい3ーZは今日この時間は何時にも増して騒々しい。
生徒達が浮足立っていて、テンションが高いせいか声もいつもよりも響く。
「ギャーギャーやかましいんだよ、猿共が!もー多数決でいいだろーが!志村!いい加減まとめろ!!」
我慢の限界が来たらしい銀時がくわえた煙草を落としそうな勢いで騒ぐ生徒達に怒鳴る。
銀時が教卓を拳で叩く音に、ようやく生徒達の注目が教師に注がれた。
皆が興奮しているのも仕方ない。
10月に入ったこの日。
初めてのHRの議題は、今月末に迫った文化祭のクラス出展を何にするかという大イベントの内容なのだ。
でしゃばりで、祭事が大好きな面々が揃っている3ーZの生徒達が、この議題に盛り上がらないわけが無かった。
銀時に一喝されてから漸く話をまとめる為に、クラス委員長の志村妙が黒板の前に歩み出る。
土方は楽しそうにしている近藤に笑いかけながらも、銀時を横目で見る。
『文化祭とか体育祭とかの張り切りムード、俺苦手なんだよな。つーか、むしろうぜぇ。』
昨日の帰り道で銀時が面倒臭そうに今日の事を話していた。
土方は本当に嫌そうにしている銀時の表情を見て、クスリと笑った。
自分も文化祭だから張り切って何かしたい!とか楽しみ!とか、思う人間では無い。
『授業が無いのがラッキーですねィ。』
いつか昼飯の時に沖田が漏らした感想の方が、自分の考えには近い。
ただ、盛り上がる皆の気持ちもわからないわけでは無い。
−−高校生活、最後の文化祭。
このクラスメイト達と過ごせる、最後のイベントだ。
いい記念にしたいと張り切る気持ちを馬鹿にするつもりも無い。
「楽しみだなートシ!俺のアイディアに一票入れてくれよ!」
土方の前の席の近藤が、椅子ごとこちらに向いて満面の笑みで言う。
土方は小さく笑った後、頷いた。
−−皆で過ごす、最後の文化祭。
−−先生と過ごせる、最初で最後の文化祭。
自分もいつもよりそれが楽しみなのは。
後者が理由らしい。