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□□恋人ごっこ□−November−Half@
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「あ、近藤くん、土方くん!」
移動教室の為、廊下を歩く土方と近藤を呼び止める声がした。
振り返ると、それは生物の教師、長谷川だった。
土方のクラスの生物の担任である長谷川は、グラサンをかけた一風タチの悪そうな出で立ちのくせに、その風貌とは対峙する弄られダメキャラぶりが生徒達に愛されている教師だ。
「なんスか?」
二人は足を止めて体ごと長谷川に振り返った。
長谷川は二人に近付いて申し訳なさそうに自分の手に持つでかい資料本をこちらに差し出した。
「君達、次化学室だよね?悪いんだけど生物学資料室にこれ戻しておいてくれないかな?急ぎの用が入っちゃって。」
教師なのだが、頭をペコペコ下げて笑う長谷川に近藤がニッコリと笑顔を見せる。
「いいですよ!どうせついでだしお預かりしましょう!」
近藤が快く分厚い資料本を受け取る。
どうにも無意識のうちに、弄られダメキャラな所が自分と似ていて親近感が湧いているのか、近藤と長谷川はよく二人で話したりしている。
近藤の言葉に長谷川はありがとうとまたペコペコ頭を下げた。
「そういや生物学資料室なんて入った事無ぇな。あの三階の隅にある人気の無い部屋だろ?」
長谷川から受け取った資料本を小脇に抱えて、近藤が思い出したように呟く。
土方もぼやけた記憶を呼び起こしてなんとなく場所が掴める位だ。
「あぁ。誰かが出入りしてるの見たこと無ぇな。殆ど使われて無ぇんじゃねーの?」
もう3年になって後半に入っている自分達でさえその程度の記憶なのだ。
ほぼ使われていないに等しいのだろう。
「まーいっか。授業終ったら持って行けばいーだけだしな。」
近藤は深い事は考えない主義なので、それ以上は掘り下げるつもりは無いらしい。
例え掘り下げた所で、自分達には卒業まで縁もゆかりも無い場所である事には変わり無い。
土方も考えるのは止めにして、ぼんやりと前を向いて廊下を歩く。
先生が担当じゃない教科の授業は自分にとってあまり興味が無い。
だが、それは逆に気楽という言葉にも似ていた。
先生が担任の現代国語の時間は阿呆みたいに強張る体と、張り詰める神経のせいで、授業が終った後の疲労感はハンパでは無かった。
先生は自分に話しかけてくる事など無い、いつも通りの先生なのに。
黒板に向かう背中や、たまに真面目に教科書を読む唇を見ているだけで。
自分勝手な妄想が生んだ、夢の中の先生の姿を重ねてしまって。
自分の中の葛藤が苦しくなる。
なのに、先生の顔を見たい、声を聞きたいという純粋な恋心も死ぬ事は無く。
欲情と恋心の狭間でいつも必死に足掻いている。
こんな欲望に気付かなければよかったと思うのに。
いつまでも知らぬフリをし続けられたハズが無いと確信する自分もいる。
いつも揺れ動く自分の感情と性欲は。
救われる方法を見付けられないでいる。