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□□恋人ごっこ□−November−Half@
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「トシ悪い!長谷川先生からの頼まれモン、お前に頼んでもいいか!?」
授業が終わるや否や、近藤が長谷川から受け取った分厚い資料本を土方の前に両手で差し出して、頼む!と頭を下げる。
「構わねぇけどどうしたんだよ、何かあったのか?」
次は昼休みで、とりわけ急ぐ事があるわけでは無いハズの近藤の焦りぶりに土方は首を傾げた。
「それがお妙さんに昼休みにバーゲンダッシュ買って来てって可愛く頼まれちゃってさ!ちょっとコンビニまでひとっ走りして来なくちゃならねーんだよ!」
土方に説明しながらも、近藤の足はその場で立ち踏みをしていて今にも学校を飛び出したいと言わんばかりだ。
土方にはそれがただのパシリである事はわかるし、可愛く頼まれたという台詞は近藤の勘違いである事も知っている。
だが、何を言おうと止まらない近藤の恋心を邪魔する必要は無い。
「わかった。これ置いたら俺は適当に昼済ますから気兼ね無く行って来い。」
「すまんな!お前にもお土産買ってくるから!頼んだー!!」
土方の承諾を得た近藤は光の速さで化学室を出て行く。
次は待ちに待った昼休みという事もあって、購買に急ぐ者が多く、移動教室だった生徒達は我先にと化学室を出ていく。
そんな生徒達を尻目に、土方はのんびりと椅子から立ち上がると、重い資料本を右手に抱えた。
今居る化学室から二つ離れた部屋、校舎の隅にある小さな生物学資料室。
初めて入る場所だからなのか、足が重い。
別に何かあるわけでも、薄暗い人気の無いその部屋が怖いわけでもないが、なんとなく足がひけた。
古びたその部屋の引き戸はサビついていて生物学資料室とかかれた札も掠れて読みにくい。
土方は一つため息を吐いてから引き戸に手を伸ばした。
ガチッ
入ろうと力を入れた引き戸にはカギがかかっているらしく、ドアが開く事を拒む鈍い金属音だけが響いた。
−−げ……開いて無ぇのかよ…。
何度か引き戸をガチガチと動かすも、どんなに古いとはいえカギがかけられている扉は動きはしなかった。
非常に面倒な事になった。
元から常に施錠されている部屋なのかもしれない。
もしくはこの部屋に関係のある化学や生物の教師のみがカギを管理していて、その教師しか開けられないとか。
だとしたら何故長谷川はそんな面倒な所に返す物を生徒になんか頼んだのだろうか。
土方は少し悩んだ後、面倒臭そうに生物学資料室の札を睨んだ。
−−まぁいいか。
どうせ昼休みは一人だ。
購買で売れ残ったパンでもかじって、適当に昼飯を済ませてから。
長谷川を探して部屋にカギがかかっていたから返せなかったと言えばいい。
自分は近藤程、長谷川に思い入れも無いし、カギがかかっている部屋に入れ無かったというのは不可抗力だ。
返したとしても責められる謂れは無いだろう。
土方は分厚い資料本を右脇に抱え直し、資料室に背を向けた。
階段を降りて購買に向かう為に、ゆっくりと歩みを進めた。
ガチャッ
二、三歩足を進めた背中越しに、カギが開けられた音がした。
何の応答も無い部屋は無人だと思い込んでいた為、土方はその音に反応して勢いよく振り返る。
資料室の引き戸が静かに開けられた。