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□□恋人ごっこ□−December−Half@
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母親が再婚するかもしれないと言ってきた。


いい人が居るのは前から聞かされていたが、どうやら本当に一緒になる決心がついたらしい。




それを聞いて、ホッとした。




これで俺も気兼ね無く一人暮らしが出来る。




そう思った。









12月に入った空は明るいのに風は冷たく、冬の到来を知らせるには充分の寒さを肌に与えた。


着崩していた制服も、ここまでくればぴっちり着込んで、マフラーなんかも欲しくなる。




「やっぱトシも一人暮らしする?俺免許も欲しいんだよなー教習どうすっかなー。」




登校する道のりで話題にあがるのは今後の事。



土方も近藤も同じ大学に推薦が決まっているから悩む事は一緒なのだ。




「俺んちは金ねぇから教習までは無理だな。一人暮らしする金だけで精一杯だ。」




母親は再婚したら再婚相手のアパートに移り住むらしい。


実際、自分の引っ越しの金だってその再婚相手が工面してくれるのだ。



これ以上我が儘は言えない。




「だよなぁー。つーかさ、なんならトシ、俺と一緒に部屋借りねぇ?二人で住めば家賃も安くなるじゃん。」




近藤の良いこと閃いた的な表情に、土方は苦笑いを浮かべた。




「それは俺も考えた。けど、あんただらし無いし、家事全般を絶対俺に頼るから止めた。」



「なにそれ!酷い!!やる事はちゃんとやりますよ!?んーでも甘えるかもなぁーいいじゃんママー。」



「い・や・だ。断る。誰がママだ。」




近藤はふて腐れたように唇を尖らせて前を向いた。




そうだ。




もっと悩まなければならない事は山積みで。



やらなければいけない事が沢山あるのだ。




こうやって先を歩こうとしている人間と話ていれば自分にも出来る。





先生の居ない、未来の話が。





先生が居ない場所に行く自分を。





もっと、想像しなくてはいけない。




いつまでも先生に縋り付いてはいられないのだから。




あの人はこの高校に居るから会える人なだけであって。




卒業すれば、会えなくなるのだから。





あの人が存在しない世界を。





早く自分に納得させなければならない。






いつまでもガキでは居られないから。





「そういやトシ、冬休みの合宿の通知来た?」




自分達を殴るように吹き付ける風に震えながら、思い出したように近藤に問い掛ける。


土方も同様に、寒さにぶるりと震える体に耐えながら両手をポケットに突っ込んだ。




「あぁ、来てたな。冬休み中、大学で剣道の合宿やるんだよな?そっか、泊まりの用意もしなきゃなんねーな。」




土方は顎を学ランの襟に入れ込み、白い息を吐き出す。


冬休み中の二週間は丸々、大学の合宿所に泊まる事になる。


泊まりの荷物だけで相当だ。



部活推薦だけあって、体が鈍らないようにする意味と、個人の実力確認の意味がある合宿だから気は抜けない。


自分達の場合、帰宅した後に近藤の道場で練習は続けているから鈍りはしないが、真剣試合みたいなものからは大分遠ざかっているから多少の不安もある。




「その合宿、総悟も参加するらしいんだ。なんだか大学から誘いが来たって言ってたんだよ。」



「はぁ!?なんで総悟も!?アイツまだ一年だぞ!?」



「いやーなんせ、一年にして団体全国優勝に個人全国三位だからなぁアイツ。実際、俺達なんかより目つけられてんじゃねーのかな。アイツはすげーからな!」




自分の事のように嬉しそうに語る近藤の横顔を見て、土方は苦笑いした。



夏の大会は、先鋒沖田、次鋒山崎、中堅原田、副将土方、大将近藤の団体戦で見事全国優勝し、三年である原田、土方、近藤は真選大学からの推薦を貰えた。


その中で個人戦で唯一成績を残したのはまだ一年の沖田のみで、その実力と将来性からかなりの大学からオファーが来ていた。



剣道はオリンピックだのプロだのそんな将来性は無いが、唯一絶対条件としてあがる公務員の資格に有効なのだ。




それが近藤や土方も目標にしている将来。



警察という名前の公務員だ。



実際その目標を掲げているのは近藤で。



他は近藤について行きたいという願望から同じ道を目指しているに近い。


だが、嫌々なわけでは無く望んでしているもの。




土方もそれは一緒だった。




近藤に導いてもらった武道の道。




それを貫きたい気持ちは今でも何も変わらないから。





 
 
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