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□□恋人ごっこ□−December−Half@
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冬休みの間の二週間。
先生と会う事は無い。
だから冬休みの間の二週間。
高杉とセックスする事も無い。
そう思いたい。
冬の体育程、嫌なものは無い。
サッカーだの野球だの、寒いながらに動くだけ動いて汗をかいて来た頃に、はい終了。
残るのは汗臭さと、汗が引いた後の異様な寒さだけだ。
「ボール集めろー!後10分だぞー!!」
やり始めてしまえば寒さなど構わずに白熱して、サッカーに夢中になっている生徒達を体育の教師、服部が授業終了10分前の合図を促す。
似合うんだか似合わ無いんだか微妙な黒のジャージ姿の服部は寒いとばかりに肩を竦めている。
「なぁ、土方は合宿中外泊取るのか?」
ゴールキーパーの原田が、ディフェンダーとしてゴール近くに居た土方と散らばったサッカーボールを集めながら聞いた。
勿論、原田も冬休みの合宿に参加する人間で頭の中は既にその事で一杯だった。
ジャージのポケットに両手を突っ込んで、校庭の隅に固まるボール達を足で集める。
「多分、取らねぇと思うぜ。洗濯は合宿所に洗濯機あるんだろ?だったら別に家戻る必要ねぇし。」
それに自分が冬休みの間は母親も再婚相手のアパートに行くと言っていたから実際帰っても誰も居ない。
足で集めるボールは思い通りにはいかず、これなら寒いなりにも手を使った方が早そうだ。
土方同様、足で集めるのを諦めたらしい原田も、寒いと文句を言いながら両手をポケットから出してボールを拾い出す。
「なんだお前も予定無しかよ。侘しいよなぁー18のクリスマスに彼女無しってのはよ。」
器用にボールを何個も抱えながら、原田は深いため息と共に呟く。
土方は苦笑いを浮かべてボールを一つ手に取った。
「一人で居るよりマシなんじゃねぇの。合宿所でお前の頭に火つけてやるよ。クリスマス気分味わえるんじゃねぇか?」
「俺の頭をキャンドルに見立てんじゃねーよ!まぁ一人よりはいいけどよぉ、高校三年間結局野郎同士なんて悲しすぎんだろ。」
集めたボールを抱えて、原田は寂しそうな目をして歩き出す。
ボールを拾い終えた土方も原田の隣に並んで歩いた。
「お前くらいは彼女居るのかと思ってたんだけどなー。まぁ、その色気ならクリスマス前に告られっかもな。」
原田がからかうように土方に笑いかける。
土方は原田の言葉に怪訝な顔をした。
「色気?……色気ってなんだよ。」
身に覚えの無い言葉に、土方の眉が寄せられた。
「クラスの女共が言ってたんだよ。『なんか最近ー土方くんって色っぽくなーい?』『なんか色気あるよねぇー彼女出来たのかなぁー』だってよ。」
ボールを両腕に抱え、原田は女子生徒の声真似をしながら体をくねらせる。
土方の眉間のシワは深くなるばかりだ。
「ま、俺にはそんなのよくわかんねーけど女にはわかるみてぇだし、彼女居ないってバレたら殺到すんじゃねーか?おこぼれ分けて欲しいぜ。」
ニヤッと笑いかけてくる原田に、土方は苦い顔をした。
そして小さくため息を吐いた後、手に持つボールを高く投げた。
−−恋は人を綺麗にする。
そんな台詞も昔あった。
だがそれは好きな相手を振り向かせる為に、外見や内面を磨くからであって、自然になるわけじゃない。
ましてや自分はその恋自体が不毛すぎて、無くしたくて仕方ないのだから綺麗になどなるわけが無い。
外見がもし綺麗に見えても。
内面は醜くくて、見れたもんじゃない。
「彼女なんかいらねーよ。テメェの事で精一杯だ。」
高くあげたボールは風に流されて自分より大分遠くの地面に落ちて跳ねる。
遠くで服部が自分達に怒鳴っている。
早くしろとかそんな所だろう。
「つーか、お前ボール一個で俺が六個持ってるっておかしくね!?少し持てや!!」
今更な事に気付いた原田が、ボールを追って前を歩く土方に叫んだ。
土方は苦笑いを浮かべて白い息を吐き出す。
「……もう抱えきれねーよ。」
一人よがりな恋も。
醜い欲望のセックスも。
どちらの秘密も重過ぎて。
前に進める気がしない。
足枷を解く鍵は。
自分の中にしか無いのに。