Black

□Christmas Present
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「…これで満足か」


俺は、隣の彼女にそう尋ねた。

案の定、彼女は俺の方を見上げ…にこっと微笑んだ。


「はい!大満足です!」


…クリスマスツリーを二人で見たかったという彼女の願いを叶える為、俺は今こうして彼女とライトアップされたそれを眺めていた。

しかし降りしきる雪の中、いつまでも見続けているのは流石に酷だった。


「…なら、送ってやるからさっさと帰るぞ」

「あっ…あの、秋山さん!」


くるりと踵を返そうとした俺の腕を、またもや彼女に掴まれる。


「…今度は何だ」

「あ、いえ…あの…その、御馳走とかケーキとか作ったので…

良かったら、食べて貰えないかなと思って…」


顔を赤らめ、そう遠慮がちに提案する彼女。

…そんな風に誘われて、一体誰が断わることが出来ようか。


「…いいのか」

「えっ…あ、はい!勿論です!」


瞬時に、彼女の表情が喜々となる。


「じゃあ、行きましょう!」

「その前に、一度家に帰る。忘れてきたものがあるんだ。

…先に行っててくれ。すぐ行く」

「あっ…分かりました。

それじゃ後から絶対、来て下さいね!」


あぁ、という返事を返し、俺は一度だけ自宅に戻ることにした。

彼女も鬱陶しいほどに何度も念を押すと、俺とは逆の方向へ歩き出した。


*****


一度家に戻った後、俺は目的の代物を手に取ると…

…再び、彼女の家を目指し外へ出た。


暫く歩き、彼女の家へとたどり着く。

そして、ノックをしようとした瞬間…


「秋山さん!!」


ドアが開き、彼女が顔を出した。


「…よく分かったな」

「足音で分かりますから…随分、早かったですね」


にこっと微笑み、彼女は部屋の中へ俺を招き入れた。

中には、良い香りが立ち込めていた。

座って下さい、と彼女が椅子を引く。

…テーブルの上には、文字通り御馳走が色とりどりに並んでいた。


「…これ、全部自分で作ったのか」

「はい。

流石に、七面鳥は無理ですけど…ローストチキン、ぐらいなら」


確かに、テーブルの中央にはそれらしい鶏肉が飾ってある。


「あ、それから…これ!」


彼女の手には…赤いボトルが握られていた。


「お前…それ」

「奮発して買っちゃったんです!

私、もうハタチですからお酒飲めるんですよ?」


えへへ、と笑いながら彼女はそのボトルと栓抜き、そして二つの真新しいワイングラスをテーブルの上に置いた。


「…酒は平気なのか」

「今日はイブですからぱぁーっとやりましょう!」


…見事に質問を流された。

この際もう、どうだっていい。


「さぁ秋山さん、どうぞ飲んで下さい!」


そう言って、彼女は栓を開けたボトルの中身を、グラスに注ぐ。

俺の分と自分の分を注ぎきると、彼女はすっと片方を持ち上げた。

溜め息を吐き、俺ももう片方のグラスを手に取る。

再び、彼女が微笑んだ。


「…メリークリスマス、秋山さん」

「…乾杯」


チン、という小気味良い音を立て…グラスとグラスを重ねる。

そして、それを口へと運んだ。

…成程。中々、上物な品だ。


「ふふ…秋山さん、ワイン飲んでる姿素敵ですね…」


見遣ると、彼女は既に頬を紅潮させていた。

たった一口、飲んだだけの筈なのだが。

…やっぱり、弱い方だったのか。

思わず溜め息を吐く。


「おい…それ以上、飲むな」

「えー?何でですか?」

「いいから飲むな」


…後が困る。

その言葉を飲み込み、彼女から無理矢理グラスを奪う。

不服そうな彼女を無視し、食事に取り掛かった。


彼女も、同じ様に自分が作った食事を食べ始める。


「…あの、ちゃんとお口に合いますか…?」


不安げに、こちらを見上げる。

…彼女の料理が、一度でも不味かったことなどない。


「あぁ…美味い」

「ほんとですか!」


彼女の顔が綻ぶ。


…その後、俺と彼女は暫く食事を堪能した。

そして、食事もそろそろ終わりに近づいた頃だった。


「あの…秋山さん」

「何だ」


急に、彼女が俺に声をかける。


「…実は、渡したいものがあるんです」


そう言って、彼女はどこからともなく…白いラッピングを施された袋を取り出した。


「あの…クリスマスプレゼントです」


おずおずと、俺にその袋を渡す。

受け取り、赤いリボンを解く。

現れたのは…


「…マフラー」


そう、黒いシンプルなデザインのマフラーだった。

手編み…だろうか。それにしては良く出来ている。網目も綺麗だ。


「あっ、その…私なんかが編んだものなんですけど…

えっと…良かったら使って、下さい」


思わず、笑みが零れる。


「ありがとう…直。使わせて貰う」


彼女の顔がぱぁっと明るくなる。


「いえ、どういたしまして!」


その花の様な極上の笑みは、一目見るだけで胸を焦がされる。

…駄目だ。

もう、我慢出来ない。


俺はガタ、と椅子の音を立て彼女の方へと近付く。
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