Black
□Christmas Present
1ページ/4ページ
「…これで満足か」
俺は、隣の彼女にそう尋ねた。
案の定、彼女は俺の方を見上げ…にこっと微笑んだ。
「はい!大満足です!」
…クリスマスツリーを二人で見たかったという彼女の願いを叶える為、俺は今こうして彼女とライトアップされたそれを眺めていた。
しかし降りしきる雪の中、いつまでも見続けているのは流石に酷だった。
「…なら、送ってやるからさっさと帰るぞ」
「あっ…あの、秋山さん!」
くるりと踵を返そうとした俺の腕を、またもや彼女に掴まれる。
「…今度は何だ」
「あ、いえ…あの…その、御馳走とかケーキとか作ったので…
良かったら、食べて貰えないかなと思って…」
顔を赤らめ、そう遠慮がちに提案する彼女。
…そんな風に誘われて、一体誰が断わることが出来ようか。
「…いいのか」
「えっ…あ、はい!勿論です!」
瞬時に、彼女の表情が喜々となる。
「じゃあ、行きましょう!」
「その前に、一度家に帰る。忘れてきたものがあるんだ。
…先に行っててくれ。すぐ行く」
「あっ…分かりました。
それじゃ後から絶対、来て下さいね!」
あぁ、という返事を返し、俺は一度だけ自宅に戻ることにした。
彼女も鬱陶しいほどに何度も念を押すと、俺とは逆の方向へ歩き出した。
*****
一度家に戻った後、俺は目的の代物を手に取ると…
…再び、彼女の家を目指し外へ出た。
暫く歩き、彼女の家へとたどり着く。
そして、ノックをしようとした瞬間…
「秋山さん!!」
ドアが開き、彼女が顔を出した。
「…よく分かったな」
「足音で分かりますから…随分、早かったですね」
にこっと微笑み、彼女は部屋の中へ俺を招き入れた。
中には、良い香りが立ち込めていた。
座って下さい、と彼女が椅子を引く。
…テーブルの上には、文字通り御馳走が色とりどりに並んでいた。
「…これ、全部自分で作ったのか」
「はい。
流石に、七面鳥は無理ですけど…ローストチキン、ぐらいなら」
確かに、テーブルの中央にはそれらしい鶏肉が飾ってある。
「あ、それから…これ!」
彼女の手には…赤いボトルが握られていた。
「お前…それ」
「奮発して買っちゃったんです!
私、もうハタチですからお酒飲めるんですよ?」
えへへ、と笑いながら彼女はそのボトルと栓抜き、そして二つの真新しいワイングラスをテーブルの上に置いた。
「…酒は平気なのか」
「今日はイブですからぱぁーっとやりましょう!」
…見事に質問を流された。
この際もう、どうだっていい。
「さぁ秋山さん、どうぞ飲んで下さい!」
そう言って、彼女は栓を開けたボトルの中身を、グラスに注ぐ。
俺の分と自分の分を注ぎきると、彼女はすっと片方を持ち上げた。
溜め息を吐き、俺ももう片方のグラスを手に取る。
再び、彼女が微笑んだ。
「…メリークリスマス、秋山さん」
「…乾杯」
チン、という小気味良い音を立て…グラスとグラスを重ねる。
そして、それを口へと運んだ。
…成程。中々、上物な品だ。
「ふふ…秋山さん、ワイン飲んでる姿素敵ですね…」
見遣ると、彼女は既に頬を紅潮させていた。
たった一口、飲んだだけの筈なのだが。
…やっぱり、弱い方だったのか。
思わず溜め息を吐く。
「おい…それ以上、飲むな」
「えー?何でですか?」
「いいから飲むな」
…後が困る。
その言葉を飲み込み、彼女から無理矢理グラスを奪う。
不服そうな彼女を無視し、食事に取り掛かった。
彼女も、同じ様に自分が作った食事を食べ始める。
「…あの、ちゃんとお口に合いますか…?」
不安げに、こちらを見上げる。
…彼女の料理が、一度でも不味かったことなどない。
「あぁ…美味い」
「ほんとですか!」
彼女の顔が綻ぶ。
…その後、俺と彼女は暫く食事を堪能した。
そして、食事もそろそろ終わりに近づいた頃だった。
「あの…秋山さん」
「何だ」
急に、彼女が俺に声をかける。
「…実は、渡したいものがあるんです」
そう言って、彼女はどこからともなく…白いラッピングを施された袋を取り出した。
「あの…クリスマスプレゼントです」
おずおずと、俺にその袋を渡す。
受け取り、赤いリボンを解く。
現れたのは…
「…マフラー」
そう、黒いシンプルなデザインのマフラーだった。
手編み…だろうか。それにしては良く出来ている。網目も綺麗だ。
「あっ、その…私なんかが編んだものなんですけど…
えっと…良かったら使って、下さい」
思わず、笑みが零れる。
「ありがとう…直。使わせて貰う」
彼女の顔がぱぁっと明るくなる。
「いえ、どういたしまして!」
その花の様な極上の笑みは、一目見るだけで胸を焦がされる。
…駄目だ。
もう、我慢出来ない。
俺はガタ、と椅子の音を立て彼女の方へと近付く。