Drama&Movie

□Stay with You
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…これで、全てに決着が着いた。

ファイナルステージも終わり、彼と二人で穏やかな海を眺める。

そして、二人で語り合う。

…私が言いたいことは、一つだけ。


『ずっと傍に、居て』

それを正直に言えたら、どれだけ良いだろう。

それなのに、何故ゲームが終わったのに嬉しそうにしないのだと尋ねられた時、私は…


「それは…これで秋山さんが居なくなってしまうような気がして…」


そんな、曖昧な言葉しか言えなかった。


「お前には、もう俺は必要ない」


…突き放す、冷たい言葉。


「そんなことありません…!」

「ファイナルステージでも一人で戦えただろ」


…どうして。どうして、そんな言い方。

彼にとって、私との別離なんてやはり何でもないことなのだ。

ほんの少しでも、彼の心の中に私という存在があれば…―

そんな願いも、彼の言葉の前では儚く砕け散る。

彼は別離を惜しんでいないのだという現実を実感させられて、ますます悲しみが胸を侵食する。

しかし言い返す言葉も無く、俯き押し黙ると。


「―…そうやって人の言う事をすぐ信じる」


…はっとして、見上げる。

呆れている様な、それでいて面白がっている様な。

一瞬硬直して、すぐに理解した。

彼のその言葉の裏に隠された、真意に…


「お前の馬鹿正直が、治る訳ないだろ」


最後の最後まで、彼には騙されてばかりだ。

本気で自分一人が別れを惜しんでいるのだと思っていたのに。


「…もう!秋山さんて、本当に人を騙すのが好きなんですね」


皮肉を込めて言うと、彼からはこう返された。


「だめか?…嘘吐きは」


その問いに、私は少しだけ考えた。

確かに、嘘はいけないことだと…思う。

けれどそれは、人を騙し欺く為に用いる“嘘”だ。

彼が吐く、嘘は…―


「いいんじゃないでしょうか…?

…人を幸せにする、優しい嘘なら」


私はそう答え、微笑んだ。

すると彼も、普段はけして見せない笑みを浮かべた。

…そして。


「…直」


私の名を呟き、私を優しく抱き寄せた。

…まるで、失楽園された時の様に。

但し、その時と決定的に違うのは…

彼を失ってしまうのではなく、彼が傍に居てくれるという事だ。

そのまま抱き締められ、私もまた、彼の背中に腕を回した。


「秋山さん…」


…優しい、温もり。

この温もりに、何度救われてきたのだろう。何度助けられたのだろう。

私はもう、この温もり…優しさを、失うことはないのだ。

それが今の私には何よりも嬉しいことだった。

彼の胸に顔をうずめ、私はその優しさを感じた。

彼も、私の髪に顔をうずめ…耳元で囁いた。


「…愛してる」


…言葉にしてくれなくても、いいのに。

それでも、彼の愛の言葉は嬉しかった。


「私も、大好きです…」


だから、私も同じ様に愛を返す。彼の様に。

彼から貰った…貰い過ぎた優しさを返してあげることは、私にはけして出来ないのだけれど。


「もう離れたくありません…」


そう呟くと、彼はそっと私を抱き締める力を緩めた。

私の顔を見つめ…左の指で唇をなぞった。…まるであの様に。


「あの時…本当にキスしたくなって、堪えるのが大変だった」


突然の、思いがけない彼の告白に…私はくすっと笑った。


「じゃあ…今だけ、堪能して下さい。

…好きなだけ」

「言われなくてもな」


そう言って、彼は私の唇を塞いだ。

…大好き、という気持ちが体中から溢れていく。

それは留まるところを知らない。


「…ん」


口付けを終えると、彼は満足そうに笑った。

そんな彼の穏やかな表情を見て、私もつい顔が綻んでしまう。


「…ほら、帰るぞ」


差し出された手。

…それは、何よりも彼がこれからもずっと私の傍に居てくれることを指し示していた。


「…はい」


そしてその手に、自分の手を重ねる。

ぎゅっと握られることが、これ程にまで嬉しいと感じたことはないだろう。


…そして、きっと。

私には新しい物語が待っている。

そしてその隣に居てくれるのは…


大好きな、大好きな…彼、なのだ。



→あとがき
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