Original

□Merry Christmas
1ページ/2ページ

「…あ」


思わず、口に出して呟く。

視線の先には、真っ白なコートに身を包んだ彼女が居た。

頬を赤くし、白い息で冷えた手を温めながら…彼女は俺を待っていたのだろう。


…ライトアップされた並木道の一角。

周囲には、沢山の人だかりが出来ていた。

…普段なら、絶対にこんな場所へは来ない。ましてや、こんな寒い日には。


「…!…秋山さん!」


白い吐息を吐きながら、彼女は同じ様に俺の存在に気付いた。

小走りに、こちらへ駆け寄る。

目の前で立ち止まり、にこっと微笑むその姿に、言葉をかける。


「…悪い、待たせて」

「もう、ほんと遅いですよ?」

「誰がいきなり呼び出したと思ってる」

「それは…ごめんなさい」


ぺこり、と頭を下げる彼女。

…そう。

今俺がこの場に居るのは、彼女から急に電話で呼び出されたからなのだ。

勿論、始めは行く気など毛頭無かったのだが…

降りしきる雪の中、彼女は俺が来るまで永遠に待ち続けるであろうことは、容易に想像がついた。

その結果…迷いに迷った挙句、仕方なく俺はこの場へ来た、という訳だ。


「一体、こんな日に何だって言うんだ」

「何言ってるんですか秋山さん!

今日が何の日かぐらい分かるでしょう?」


…頭の中で、今日の日付を思い出す。


「…12月24日」

「クリスマスイブって言って下さい!」


あぁそうか。

この並木道も、人だかりも、街の雰囲気も全て…

クリスマス・シーズンだからか。

しかし、それにしても彼女が俺をこの場に呼び出した意図は不明だ。


「…で、だから何だ」

「あっ…えっと…それはですね…

ちょっと、こっち来て下さい!」


そう言うと、彼女はいきなり俺の腕をぐいっと引っ張った。

そのまま、仕方なくついて行く。


「おい、一体何…」

「これです!」


彼女がぱっと指を差す。

反射的に、視線をそちらへ移す。

…そこにあったのは。

並木道の広場らしい場所にあり、白い光に包まれた…


大きな、クリスマスツリー。

煌々と輝くその姿に、不覚にも一瞬だけ感慨深くなる。


「これ、秋山さんと二人で見たかったんです!」


隣で、にこっと彼女が微笑んだ。

…周囲には、同じ様に沢山の人々がそれを見ていた。

幸せそうな恋人達、楽しそうな友人同士、子どもの手を引く家族連れ…

そして、赤いサンタクロース。


「あの、大学の友達が教えてくれたんです!

イブの日にこのツリーを見ると、永遠に結ばれるって!」


俺は思わず溜め息を吐いて、こめかみを押さえた。

…まぁ所詮、そんなことだろうとは思っていたが。


「それで、俺を呼び出したのか」

「ごめんなさい…どうしても、秋山さんと見たくて。

その…秋山さんにも、会いたかったですし…///」


顔を赤らめ、彼女はそう話した。

その言葉に、思わず胸の奥が熱くなる。

…頼むからそういうことを言わないでくれ。


「…直」


言うや否や、俺は直を無理矢理抱き締めた。

…もう堪らなかった。


「きゃっ…///…秋山さん!?」


驚いた様に、彼女は俺の方を見上げる。


「あ、あの…あきやま、さん?」

「……好きだ」


想いを、口にする。

まるで、確かめるかの様に。

言葉にする度、その想いはより…強くなる。


「…愛してる、直」

「私も…

秋山さんが、大す…っ!」


言い終えるのを待たず、腕の中の彼女の唇を奪った。


「ん…」


触れるだけのそれから…深いものへと。


…暫くして、ようやく唇を離す。

彼女の顔が先程よりも赤いのは、きっと寒さのせいだけじゃないだろう。

そして、彼女は俺の目を見て微笑んだ。


「秋山さん…メリークリスマス」


彼女と、白く光るツリーにはその言葉が一番似合っていた。


…クリスマス。

そんな日も、案外いいのかもしれない。

俺も、微笑を浮かべた。


「…メリークリスマス、直」



→あとがき
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ