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□大晦日
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ピンポーン…と、不意にチャイムが鳴り響く。

こんな日に誰だ…と思ったが、大方想像は付いていた。

…外は既に真っ暗になっている程の時間帯だ。

玄関まで向かい、ドアを開ける。


「こんにちは!秋山さん」


満面の笑みが視界に飛び込んでくる。

思わず溜め息を吐いた。


「…やっぱり君か」

「え、ちょっと何で溜め息吐くんですか!?」


長い髪に、白いコートとマフラー。

…勿論、それは彼女だった。

当惑した様な顔を見せるのだが、むしろ当惑しているのはこちらの方だ。


「こんな遅くに一体何の用だ」

「何って…今日は大晦日だから…

その…秋山さんと一緒に過ごしたいな、とか…あの…えっと…///」


話していくうちに、見る見る顔が赤くなっていく彼女。

最後の方は、しどろもどろだ。

…まぁ、要するにそういうことか。


「あっ、それと…お節料理も作って、持って来たんです。

明日には二人で食べれる様にと思って…」


その手には、大きな紙袋が握られている。


「分かった…寒いから入れ」

「いいんですか?」


彼女の顔が明るくなる。

うなずき、玄関のドアを開け彼女を招き入れる。


「お邪魔しまぁす」


微笑みながら、頭を下げドアの下をくぐる。


「わぁ、あったかいです」

「当たり前だ…暖房入れてるからな」


彼女は、持って来た紙袋をテーブルの上に置く。


「…適当に座ってろ」

「はい…あ!紅白もう始まってますよ、秋山さん!」


そう言って、彼女はテレビの電源を付けた。

紅白、という聞き慣れない単語が耳をよぎる。


「…ほら」

「あ、ありがとうございます!…あったかいです」


彼女は、俺が差し出したココアを手に受け取る。

隣に座ると、彼女はえへへ…と嬉しそうに微笑んだ。


「…良かった。秋山さんと一緒に過ごせるなんて」


満足気に、彼女は視線を俺からテレビの方へと移す。

…幸せそうな、表情。

にこにこと笑みを浮かべるその顔を見ていると、こちらまで顔が綻んでくる。


…その後、俺と彼女はただ黙って寄り添っていた。

言葉なんて、必要なかった。

傍に居てさえくれれば。

何も…ただの何も、二人を隔てるものなど無かった。

お互いの存在を確かめ合うように、俺と彼女は寄り添い合った。


*****


「ふぅ…紅白終わっちゃいましたね…」


暫く時間が経った後、不意に彼女はそう呟いた。

見ると、確かにテレビにはそれらしい司会者が別れの言葉を述べている。

正直言って、全くと言っていい程そんなものに興味は無かった。

ただ…

嬉しそうな、彼女の横顔。

液晶画面なんかよりも、よほどその顔の方が見ていて飽きない。

ただ。ただ…見つめているだけ。

それだけで良かった。


「…?…秋山さん?」


不思議そうな彼女の表情。

そんな表情の全てが…


…愛しくて。


反射的に、彼女を抱き寄せた。

腕の中に、彼女という存在を抱きすくめる。


「…直」

「秋山さん」


少し離れ…右手の甲をその頬に当てた。


「…愛してる」


微笑み…そう呟いた。

分かってる。本当はそんな言葉は必要無いということぐらい。


「秋山さん…」


にっこりと微笑み、彼女の小さな両手が俺の両頬に添えられた。

そのまま…

唇が重ねられる。

彼女の後頭部に手を回し、深い口付けをさせる。

暫くして、唇を離した。

すぐにまた、唇を奪う。

…何度も何度も。

口付けを交わし合う。


それは大晦日という、夜の狭間で。


「…なぁ直」

「なんですか?」


俺は唇を離すと、そう声をかけた。


「…このまま年越すってのも悪くないだろう?」

「え?」


きょと、とした表情の彼女。

すぐにその言葉を真意を理解した。


「なっ…秋山さ…///」

「そもそも、こんな日に男の部屋に上がり込むなんて…

どう考えても、誘ってるとしか考えられないんだが」


彼女の顔が真っ赤になる。


「…ダメです、煩悩のまま新年迎えちゃいます!」

「百八個もあるんだから一つくらい大丈夫だ」


彼女の抗議を、あっさりと流す。

むぅ、と拗ねた様な顔になる彼女。


「…意地悪な人」

「自業自得だ」


言うや否や、彼女の体を押し倒した。

そして再び、甘く深い口付けを交わし合った…―



→あとがき
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