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□A HAPPY NEW YEAR!!
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雪が降り積もる、その朝。いつもの様に起床した。
それまでと何一つ変わらない朝なのに、世間はそれを…元旦と呼ぶ。
ただ、年の日付が変わっただけ。
それなのに何故人間はそれを祝い、喜ぶのだろう。
…窓から、朝日が差し込む。
これも、同じ…初日の出と言うらしい。
「…ん……」
隣に横たわる、彼女も目覚めた様だ。
俺の姿を捉えると、微笑みを浮かべる。
「…明けましておめでとうございます、秋山さん」
その、にこりと微笑む姿は昨年と同様、新たな年でも可愛らしい。
俺も微笑を浮かべた。
「…直」
“おはよう”と“明けましておめでとう”という言葉を唇に込め、口付けする。
…朝日が差し込む中、俺と彼女は新たな時のことなど忘れ、ただひたすらキスに没頭した。
*****
「さぁ、どうぞ食べて下さい!」
喜々とした表情を浮かべる彼女は、テーブルの上に作ってきたというお節料理を並べる。
「…よくこれだけ作ったな」
えへへ、と嬉しそうな彼女。
…昨晩、彼女は俺の家までこの自作のお節料理を持って来たのだ。
どうぞどうぞと勧める彼女の言葉通り、それらを口に運ぶ。
「…美味い」
本当に、彼女は和食だろうが洋食だろうが中華だろうが…作る料理は全て美味だ。
それこそ、調理師の資格でも取れるのではないだろうか。
…そんなことを思いながら、箸を進める。
「ありがとう、ございます…///」
照れながら、はにかんだ様な笑みを浮かべる。
彼女も、自分が作った料理を食べ始めた。
…そうして、俺と彼女は二人で朝食を味わった。
「あの、秋山さん…」
「何だ」
食事もそろそろ終わりに近付いた頃。
「その…秋山さんさえ良かったら…
あの、一緒に初詣に行きませんか…?」
彼女は遠慮がちに提案した。
「…何でだ」
何故、初詣などという人混みの中を、こんな極寒の日に行かなくてはならないのだ。
しかも、俺も一緒にと。
行くなら一人で行って来い。
…出掛かったその言葉を飲み込む。
そんなことを言えば、彼女はきっと泣いてしまう。
「…えっと、あの…
その、どうしても…神様にお願いしておきたいことがありまして…」
上目遣いになる彼女。…思わず、溜め息を吐く。
「…だめ、ですか?」
そんな顔で頼まれてしまっては、断わることなど出来やしない。
「…さっさと行ってさっさと帰る」
彼女の表情が、ぱっと明るくなる。
「いいんですか?」
「…用が済んだらすぐに帰るぞ」
「はいっ!」
…そんな訳で、俺は新年早々、彼女に付き合わされる破目になってしまった。
*****
「うわぁ…流石に、込んでますね」
…とある神社にて。
元旦である本日は、兎に角人でごった返していた。
その人混みの中、初詣をする為に彼女と共に並ぶ。
「…君が言い出したんだろ」
彼女のその言葉に言葉を返す。
「それはまぁそうなんですけど…
…ごめんなさい。何だか、私の我儘に付き合わせてしまって」
「全くだ」
「…反省してます」
しゅん、と本当にすまなさそうな顔をしてみせる彼女。
思わず、許してやりたくなる。
「…まぁ、別に怒ってる訳じゃない」
「…え?」
彼女が、そう聞き返したとき。
何時の間にか前方の人間は立ち去っていて、目の前は既に神前だった。
「…あ、お参りしなきゃ」
そう呟き、彼女はにこりと微笑んだ。
カランカラン、と鈴を鳴らす。
そして、財布から500円玉を取り出した。
「…賽銭にそんな使うのか?」
「はい!だって、三つもお願い事あるんですから!」
…尋ねたことを少しだけ後悔した。
彼女はそれを投げ入れる。そして二度、礼をする。
その後、ぱん、ぱん、と手を二回打ち鳴らす。
最後にもう一度、頭を下げた。
此処は神社なので、彼女が行った二礼二拍手一礼という作法は正しい。
彼女に、秋山さんも、とやるようせがまれ…仕方なく形だけ“お参り”をした。
そして…心の中で、願いを呟く。
やがて、神前から立ち去ると…彼女はやけににこにこと嬉しそうな表情を浮かべていた。
「…何、頼んだんだ」
「えっとですね…
まず一つ目は、今年も一年、真面目に正直で居られます様にってことで…
二つ目は、もう二度とあんなゲームが起こりません様にってことで…
三つ目は……あ、やっぱり…いいです!」
三つ目の頼み事に差し掛かった時、彼女は急に話を止めた。
「…?…三つ目は?」
「え…えっと、あの…言えません…///」
彼女の顔が、次第に赤くなっていく。
そんな風に言われると、余計知りたくなる。
「何だ、言え」
「いいえ!いいです!」
「…誰がこんな寒い日に付き合ってやったと思ってる」
「!…うぅ……」
俺のその言葉で、彼女は話すことに決めた様だ。
「えと…怒らないで、下さいね…?
あの…その、三つ目は…
…秋山さんと、ずっと一緒に居られます様にって……////」
赤面しながら、彼女はそう話した。
「俺…」
「はい…あの…ずっと、傍に居てくれますか…?」
本当に、彼女は…直はいつでも。
一番大切なことを、言ってくれる。
「…直」
微笑を浮かべ、その細い体を抱き締めた。
髪に顔をうずめる。
「…秋山さん?」
「居るから。ずっと…傍に」
刹那、彼女の顔が綻んだ。
「…はい」
微笑みながら、彼女はうなずいた。
俺は強く強く彼女を抱き締める。
そうしないと、まるで雪と一緒に彼女も溶けて消えてしまうのではないかと思って。
けれど…
彼女もまた、手を回し俺の体を抱擁してみせた。
…確かな、感触。
「…大好きです」
「愛してる」
どうか。
どうか…今年も、来年も、再来年も、ずっと永遠に…
“一緒に居られます様に”。
→あとがき