短編 銀新

□幸せってそこら辺に転がってるんだよ
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ベランダに布団を干して一息つく。今日は一日中快晴だとテレビでも言ってたしこのまま夕方まで干しておこう。
神楽ちゃんは遊びに行って、銀さんは珍しく入った仕事に行ってる。午後からどうしようかなぁと思いながら過ごしているとチャイムが鳴る。

「はーい」
「ちょいと、ごめんよ」

私が立ち上がるより先に玄関を開けて入ってきたのは、下のスナックオーナー兼家主のお登勢さんだ。

「おや、銀時はいないのかい?」
「えぇ、仕事に行ってて帰ってくるのは夕方になります。銀さんに用事ですか?」
「いや、明日届けて欲しい物があってね。悪いんだけど、帰ってきたら言っといておくれ」
「わかりました。伝えておきます」

あのマダオが素直にやるとは限らないけど、チョコでもちらつかせばやるかな。

「そうだ。新八、あんた時間あるかい?」
「え?はい、午後から暇を持て余しそうで」
「ならちょうど良いね。これから仕込みするんだけど手伝いな。仕込んだ料理分けてやるから」
「本当ですか?!ありがとうございます!」

これで今晩のおかずには困らない。神楽ちゃんにメモを残しお登勢さんについて行く。

たすき掛けをし、お店のエプロンと三角巾を借りて人参、ジャガイモと言われた通りに切っていく。

「お登勢さん、これぐらいで大丈夫ですか?」
「あぁ、それを煮込んでおくれ。味付けはあたしがするから」
「はい」

お登勢さんの煮物は美味しいからなぁ。懐かしいっていうか、母の味を知らない私にとってはまさにお袋の味。
銀さんや神楽ちゃんだって何やかんやとお登勢さんの料理好きだし。
里芋を向いていたら、店内を掃除していたタマさんと目があった。

「どうしました?」
「いえ、そうしているとお登勢様と新八様はまるで嫁と姑の様だと思いまして」
「…へ?」

思わず間抜けな声を出したらお登勢さんが「そうさねぇ」と笑う。

「銀時の所に良い嫁がきて、あたしも嬉しいよ」
「よよよよよよよよ嫁ッ?!」

お登勢さんの言葉に過剰に反応しすぎて里芋が手から離れる。顔が熱くてしょうがない。
パタパタと手で仰ぎ熱を冷ます。

「ケッ、満更デモネェンジャネェンカ、メガネノ癖ニ」
「メガネ関係ないだろ?!」

ボールに落とした里芋を拾い皮を剥くの開始する。

「わ、私と銀さんはそんなじゃ」
「お〜い、新八いるかぁ?」

噂をすればなんとやら…ガラリと扉が開き、大工の作業着を来た銀さんが入ってくる。


「銀さん、お帰りなさい。お仕事終わったんですか?」
「たでーまー、早めに終わった」
「そうですか、お疲れ様です。私お登勢さんの手伝いしてるんで、銀さん家に帰ってゆっくりしてください」
「いや、二階に上がるのもダリィから此処で休むわ。ババア、酒」
「家賃払ったら出してやるよ天パ」

銀さんが仕方ねぇなぁ、と懐から封筒を取り出し私に差し出す。
エプロンで手を振き「ありがとうございます」と言い両手で受け取り中身を確認する。
良かった家賃払っても、大丈夫だ。

「お登勢さん、遅くなってすみません、2ヶ月分です」
「確かに」
「あっ、銀さん。お登勢さんが明日届けて欲しい物があるそうですよ」
「あ〜?銀さんもうヘトヘトだぜ?明日筋肉痛だよ」
「そう言わず。私も一緒に行きますから」
「…仕方ねぇなぁ」

ガリガリと頭を掻いて了承する銀さんの姿に微笑む。今日の出来事を話しながら皮むきを再開する。

「まったく、緩みきった顔しやがって」
「お登勢様、嬉しそうです」

そりゃあ、あいつに可愛い嫁と娘が出来たんだから

「息子の幸せを喜ばない親はいないよ」

サービスに味付けた煮物を装い、コップ一杯の酒を注いだ。



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