短編 銀新

□I will begin a game
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人生で何回目かのゴミの匂いに埋もれていたら声を掛けられた。

「大丈夫ですか?」

ゆるりと顔を上げれば、女が見下ろしてる。
この歌舞伎町には似合わない清潔な洗剤の香り。バーテンダーの格好に、薄手の水色のパーカーを羽織ってる。
こんな街には不似合いな女。
肩に掛けていたバックからタオルを取り出し俺の頭の上に乗せ、両手で優しく髪に含まれている水分を拭っていく。
それを黙ったまま受け入れていると女は頬と肩で挟んでいた傘を俺に掛からない様にする。

「あの、大丈夫ですか?」
「…この状況で大丈夫そうに見えたらスゲェよ…」
「そ、そうですよね」

タオルで今度は顔を拭く、傷に触らない様に丁寧に拭いてく。体中が軋む。口の中は血の味するし、痣だらけだし。最悪だ。


「新八」


カツンと高いヒールの音が路地裏の方から響く。現れたのはチャイナ服を身に纏った女。

「何してるネ、早く店に入るアル」
「あの、…」
「何アルか、その汚い物」
「誰が汚ねぇだ」

俺の発言にチャイナ女の周りにいた黒ずくめの男達が懐に手をやる。
チャイナ女が、手を振れば周りの男達が懐から手を離す。
カツンとヒールの音を響かせ近づいてくる。

「私に喧嘩売るなんて面白い男アル」

「気に入ったネ」と微笑み女は踵を返す。

「新八、そいつお前が磨いて店に出すアル」
「はい、解りました」

そのまま黒ずくめの男達を引き連れ女は去っていく。

「あの、取りあえず中に。説明しながら傷の手当てしましょう」

俺は女の肩を借りて立ち上がる。フワリと甘い匂いがした。

店の中に入ると煌びやかな内装に少し驚く。

「ホストクラブ?」
「はい、此処は先程の女性、神楽様が経営していらっしゃるホストクラブの内の1つです」

従業員の休憩所も広く清潔だった。この店の金回りがよく見える。

「傷の手当てします。服脱いでください」
「あ、あぁ」

ボロボロのパーカー脱ぎ捨て女に背を向ける。
「失礼します」と、脱脂綿が傷口に触れる。ピリッとした感覚がしたが耐える。
黙々と傷の手当てをされる。

「あんた名前は?」
「志村新八です」
「それ本名?」

だってどう聞いても男の名前じゃん。

「本名ですよ?」

キョトンと言う効果音が似合うくらい目が大きい。

「えっと、」
「俺は、坂田金時」
「坂田さん」
「金さんでいい」
「では、金さん。突然すみませんが、今日からホストとして此処で働いてもらいます」



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