短編 銀新

□花言葉は母への愛情
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志村家のお墓に添えた一輪の花。
隣に座る姉上と一緒に手を合わせ目を瞑る。
毎年、お盆以外で手向ける花。
鮮やかな色をした赤いカーネーション。


姉上と別れ両手に二本のカーネーションを抱え万事屋に向かう。時刻はちょうど10時。何時もより遅い時間だ。
昨日の内に銀さんには遅くなるって言っておいたし、文句は言われないだろう。

「おはようございまぁす」

ガラリと玄関を開け、中に入ればご飯の匂いがした。
珍しい…銀さんが起きてる。そのまま台所に向かうと何時もの服を着た銀さんが朝食で使った食器を洗っていた。
その光景に驚きしばらく停止していたが、目が合い意識が戻る。

「おはようございます銀さん。遅れてすみません」
「おはよ…、へぇ〜カーネーションかぁ」
「えぇ、今日母の日ですから、家のお墓に飾って来たんです」

戸棚から昨日の内に、奥から出して置いた使われた事の無い花瓶を取り出す。
その中に水を淹れ、一輪飾る。

「神楽ちゃん起きてます?」
「あ?あぁリビングにいんぞ」

リビングに向かうと、ソファーで何時もの様に寝転がってる神楽ちゃんと定春がいた。

「おはよう神楽ちゃん」
「おっすダメガネ、…何アルカ?それ」

物珍しそうな顔をして近寄って来た神楽ちゃんに花瓶を渡す。

「これはカーネーションって言うの。今日は母の日って言ってね、お母さんに感謝する日なんだ。だから、コレ神楽ちゃんのお母さんに渡して」
「あげるって、私のマミーは…」
「このカーネーションが空から見える所に飾れば、お空にいる神楽ちゃんのお母さんにも見えると思うんだ」

渡す事は出来ないけど、見せる事は出来る。
そう言えば、蒼の瞳がキラキラ輝き嬉しそうに笑う。
神楽ちゃんはさっそく、カーネーションを大事そうに持ち和室に向かう、あそこは日当たりが良いし空を見上げる事が出来る。
さてと、と台所に向かう。
銀さんが最後の食器をザルに上げる。

「珍しいですね。銀さんが食器洗うなんて」
「神楽とジャンケンしたら負けたんだよ」

なるほど、だからか。
やれやれと振り向いた瞬間に銀さんの目の前にカーネーションを差し出す。

「はい、銀さん」
「…え?なに?」

最後の一輪は銀さんにです、と言って無理矢理持たせる。
銀さんは訳が解らないと、カーネーションと私を交互に見る。その様子に苦笑しながら、仕方ない…と口を開く。これだけ言えば勘の鋭いこの人は解る。

「銀さん、今日は『母の日』ですよ」
「…………」

ハタリと動きが止まる。「…あぁ〜」と髪をかき乱し、斜め上を見つめる。しばらくした後―――。

「…ちょっくらジャンプ買ってくらぁ」

バリバリと頭を書きながら家を出て行く姿に「行ってらっしゃい」と声を掛ける。
今日は日曜日ですけど?なんてツッコミは今日は止めておこう。



この日から毎年母の日には、スナックお登勢と、万事屋の和室とリビングにカーネーションが飾られる様になった。


end.

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